導べの星 第4話 ― SCENE3 アンジェリーク・ルヴァ 「ルヴァ様、こんにちは!」 「いらっしゃい。育成の依頼ですか?」 「はい。エリューシオンにたくさんの力を送ってください」 「わかりました。あなたの願い、覚えておきますよ」 女王試験が始まって数週間が過ぎた。 いまのところアンジェリークとロザリアの大陸の育成状況はほぼ互角。 どちらが女王になるとも予想がつかないのが正直なところだ。 (あの、ごく普通の少女がまさかロザリアと互角に勝負できるとは思いませんでしたが) 「ルヴァ様、何を笑っていらっしゃるんですか?」 「いえ、あなたが初めてここにいらした時のことを思い出していたんですよ」 「わ、私、そんなに失礼でしたか?」 「いえいえ、そんなことはありませんけどね」 ****** 聖殿での謁見が終わったあと。 一旦、寮に案内されたアンジェリークとロザリアの二人は、ディアの案内で再び聖殿に向かった。守護聖に挨拶するためである。 「ええと、次はルヴァの所ね。大丈夫、ここが最後ですよ」 緊張の連続だった二人の少女が、あからさまにほっとした顔をする。 (守護聖とは変わった人が多い、これからちゃんとやっていけるのだろうか?)という感想を二人が抱いていたとしても、彼女達だけを責めるわけにもいかないだろう。 「ルヴァ、失礼しますわね。女王候補のお二人をお連れしましたのよ」 「ああ、ディア。どうぞお入りください」 (あ、やっぱりあの人だわ) ターバンを巻いた青年というのは、あまり見かけない分印象に残りやすい。 アンジェリークは思わずまじまじと見てしまって、ルヴァに苦笑された。 「そんなに珍しいですかね」 「あっ!あの、す、すみません、失礼なことを…」 「先ほどお会いしましたね、アンジェリーク。またお会いできて嬉しいですよ」 「あの、さっきはどうもありがとうございました。ちゃんとお礼ができなくて気にかかってたんです。お会いできてよかったです」 この会話を聞いてディアとロザリアが口をはさむ。 「あら、二人は知り合いだったのね。それはよかったこと」 「さっきって、もしかして庭園で?まあ、あれはルヴァ様だったのですね?申し訳ありません、失礼なことを…」 「いえ、構いませんよ。急いでいるときは仕方ありませんからね」 人当たりの良いにこやかな笑みを浮かべてロザリアに答える。 つきん。 (あれ、なんだろう、今一瞬胸が痛かったような?) とっさに胸を抑えてしまったけれど。今のは……? 「アンジェリーク?どうかしました?」 「すみません、ディア様。何でもないです」 「そう?無理はしないでね、まだ初日なのですから。 …ルヴァはもう二人のことをご存知のようですけど、一応紹介させて頂きますね。 こちらがアンジェリーク。そしてこちらがロザリア。 ふたりともスモルニィ学院の学生さんでしたの。 今日からは女王候補としてこの飛空都市の特別寮に滞在することになります。 アンジェリーク、ロザリア、こちらの方が大地の叡智を司る守護聖、ルヴァです。 とても知識の広い方ですから、分からないことがあったら何でも相談すると良いでしょう」 「地の守護聖ルヴァです。どうぞよろしくお願いしますね。 遠慮なく執務室を訪ねてきてくださって構いませんからね」 「ロザリア・デ・カタルヘナと申します。これからよろしくお願いいたします」 「アンジェリーク・リモージュです…」 アンジェリークの声には覇気がなくなっていた。 「アンジェリーク、どうしたの?やっぱり変じゃない?顔色悪いし」 「緊張の連続で疲れたんでしょうね、そろそろ寮に戻ったほうが良いかもしれませんね」 「だ・いじょうぶ・で…」 「危ない!」 フッと意識を失って倒れこむアンジェリークを、すんでのところでルヴァが抱きとめた… ****** 「初日から朝食抜きなんて、あなたも無茶をしますよね」 「ルヴァ様、意地悪言わないでください」 謁見前夜、緊張しすぎて眠れなかったため寝たのが遅く、起床が時間ぎりぎりとなり、 朝食をとれなかったのである。 それに当日の極度の緊張が重なって貧血を起こしたと言うのが事の顛末である。 ルヴァへの挨拶で一通りあいさつ回りは終わったこともあり、 その日はそのままディアに送られて寮へに帰る事になった。 これほどインパクトのある自己紹介も少ないだろう。 「意地悪、ですか、それは失礼しました、ふふっ」 「もう!笑わないでください!!」 −元気よく挨拶してくれる眩しい笑顔。怒っている顔までも愛らしくて。 −−いつも変わらない優しい笑顔。からかわれていても、やっぱりこの人の笑顔は暖かくて。 それは確信的な予感。 ((私はこの人を好きになる……)) (続く) 導べの星第3話へ 導べの星第5話へ ----------------- 作者より どうにか4話まで辿り着きました。先は長い。 やっと二人のシーンが書けて嬉しい(ちょっとだけど) そしてディア様は書くのが難しいです(泣) |