導べの星 第3話 ― SCENE2 女王アンジェリーク・ディア 広大な聖殿の中でもひときわ豪奢で、荘厳な風格の漂う部屋。 その謁見の間に9人の守護聖全員と女王補佐官が揃い、定位置に並ぶ。 そして、奥の玉座に女王その人が着席する。 これはひどく珍しいことであった。よほどのことがない限り、守護聖全員が同時に集うことなどありえないといって良い。 出張と称してあちこちの惑星を飛び歩き、ありとあらゆる女性を口説きまくっているもの、自室に籠もり夜になるまで起き出さないもの、夜通し趣味に熱中して朝は起きれないもの。一般的に見れば変わりものの多い守護聖達は、そうそうなことでは一同に会すことなどないのだ。 それが全員ここに集っている。どれだけ異例なことかといえば、宮殿に仕える者達は朝からすっかり怯えてしまっているほどだ。 「次期女王候補に選ばれし者達よ。前へ」 首座の守護聖ジュリアスの声が響き渡る。 「「はい」」 アンジェリークとロザリアは長い謁見の間の絨毯の上を進む。 途中、ターバンを巻いた深草色の服の青年を見て、アンジェリークが「あっ」と小さく息を飲むが、隣のロザリアに促されてそのまま女王の前まで歩く。 「女王候補よ、女王陛下にご挨拶申し上げるように」 「はい」 ロザリアが一歩前に進み出る。 「ロザリア・デ・カタルヘナでございます。スモルニィ女学院では、女王特待生として日夜勉学に励んでおりました。このたび女王候補に選ばれて、光栄でございます」 「では、もう一人の女王候補よ。挨拶を」 「ア、アンジェリーク・リモージュです。私、すごく普通の子で、なんでここにいるんだか良くわからないんですけど、一生懸命頑張りたいと思います。よろしくお願いします!」 ぺこり。 まさにそういう形容がふさわしいお辞儀をした彼女に、歳若い守護聖たちがぷっと吹き出す。誰がが見ても、アンジェリークが場違いにしか見えない。 が、年長の守護聖達は今の自己紹介に一様に驚いた顔をする。 (「アンジェリーク」、だと?陛下の御名と同じ…これは偶然なのか?) (懐かしい名だ。もう二度と口にすることはないと思っていたのだが、な) (先ほどはうっかりして気付きませんでしたが、陛下と同じ名…やはりこの試験は…) 「ほう、これは偶然か。我が名と同じ名を持つとはな」 玉座から聞きようによっては楽しげにも聴こえる声が届く。 ベールで覆っているため、表情は分からないが、アンジェリークはなんとなく女王陛下が微笑みかけてくれたような気がした。 「星を導く使命を持つ者達よ、そして我が志を継ぐ者よ。どうか我が期待に応えてほしい」 (そして、この宇宙を救って…) 「女王補佐官ディアと守護聖たちがそなた達の力になろう。分からないことがあれば何でも聞くが良い。では、良い結果を期待している」 すっと紗幕が引かれ、女王の姿は見えなくなった。 「ロザリア、アンジェリーク、疲れたでしょう?守護聖の皆様方はあとで紹介いたしますから、先にお部屋にご案内しましょうね」 「はい、あの…」 「なんですか、アンジェリーク」 「…いえ、なんでもないです」 心中は、あのターバンの青年が気にかかって「なんでもない」どころではなかったのだが、今はタイミングが悪い。あとで紹介してくれると言ったのだから待とう。 そう決めて、ディアの後に従ったのだった。 (ねぇディア、覚えていて?私達もあんな学生だったのよ) (ええ、アンジェリーク、忘れたりしないわ。あの頃は何もかもが輝いて見えたものよ)(…あの子達は、いいえ、彼女は、宇宙を救うことができるかしら?) (きっと、いえ、必ず。あなたが見出した才能だもの。間違いないわ。なにせあなたはこの宇宙の女王陛下なんですもの) (いつか、きっと…) 第256代女王試験はこうして始まったのだった。(続く) 導べの星第2話へ 導べの星第4話へ ----------------- 作者より まずい、本気で終わらなくなってきた(爆) 当初予定、7話だったんですが、まだアンジェとルヴァ様お話してません(T_T) まさかこれでまるまる一話になってしまうとは、恐るべし女王陛下。 第3話書くために、久々にSPを引っ張り出してきて最初だけプレイしました。 一部ゲームのセリフそのままなのは、そういう理由です(笑) 懐かしかったです。やっぱりSPは名作だvv |