俺の精一杯        咲紀様

「よお!マルセルー。おめー朝から元気いいな」

チュピと駆け回るマルセルを見ながらゼフェルは眠そうに声をかけた。

「あ、ゼフェル、おはよう!珍しく早いんだね」

「あ、ああ。何となくな」

ふあ〜と欠伸をしながらその場に座り込んでしばらく朝の日差しに目を細めていた。

「…ちぇっ」

何やら一人でぶつぶつと言いながら時折口を尖らせたりため息をついたりしている。

先日の自分の行動を思いだし、どうにも落ち着かない気分だった。

(何で俺……あんな事言ったんだ?)

独り言は続いていた。

(アイツが嫌いな訳でもねーのに、だからといって甘ったるい言葉なんか……ちぇっ……。)

考えれば考えるほど頭が痛くなるが、考えないわけにもいかないようだ。
ゼフェルにとっては拭おうとしてもどうしても拭えない存在なのだから。

(いくらなんでも『うるせーな!邪魔なんだよ!』は、ねーよな。
しかも『せっかくの日の曜日に女と約束なんか出来るか!!』って、これも言い過ぎだよな。
アイツ、悲しそうな顔してたもんな。
俺、それ見てちょっとびっくりして、…うん、ホント驚いたっつーか。
アイツ、真剣だったんだよな。
でも、俺だって……真剣だっつーの。
でもアイツの前でそんな事言えるわけねーじゃん。)

今度は少し大きな声で「ちぇっ!」っと舌をならす。

重い腰を持上げて辺りを見渡すとマルセルの姿は見あたらなかった。

「なんだよ、マルセルのやつ。せっかく俺が貴重な日の曜日を一緒に過ごしてやろうと思ってたのによー! ……仕方ない、ランディなら居るだろうな」

ゼフェルはランディの所へ一目散に向かった。

「よお!ランディ!お前今日暇なんだろ。」
「あ、ゼフェル!悪いな、俺今日…その……ちょっと都合が……」

歯切れの悪いランディの口調にゼフェルは苛立ち、するどい目つきで睨んだ。

「なに!?俺の誘いを断るのかよ!…お前まさか、デ、デートってやつじゃねーだろーな!」
「あ、あのー。本当に悪いなゼフェル。俺、時間無いから!」

ランディは焦りながら逃げるように走り去ってしまう。
「んだよ!どいつもこいつも!俺が仕方なく貴重な時間を提供してやろうっていうのによー!」

(こんな事なら、いっそのことアイツの誘いに……)

ふと頭をよぎった考えをかき消そうと頭を左右に振り回した。
そしてまた座り込んでため息をついた。

少し眩しい日差しは心地よく降り注いでくる。
思わずその場に寝転がりそのまま目を閉じる。


……どれくらい寝てしまったのか。

「あのー……ゼフェルさま」

その声にドキっとして思わず飛び起きる。

「アンジェリーク!?何でお前がここにいるんだよ!」

「あ、あのー。マルセル様とランディ様が…」

「何だと!?あいつらが何言ったんだ」

「えーと。ゼフェル様が暇を持て余しているので是非お相手をして上げて欲しいと」

「………」

ゼフェルは思わず言葉を失う。
もちろん心の中では……(あいつら!!覚えとけよー!)

アンジェリークは言葉を続けた。
「でも私、どうしようかと迷ったんです。……だって一度ゼフェル様にデートのお誘いを断られているのに……」
悲しそうに彼女は下を向いた。

「あ、あの、あれは、違うんだよ!えーと、あの…なんて言ったらいいのか」

柄にもなく言葉を詰まらせ赤くなり下を向いてしまう。

「あのー。私……やっぱりご迷惑ですよね……」

スっと立ち上がり去ろうとするアンジェリークの手を素早く握り引き留めた。

「アンジェリーク……違うんだって!聞けよ!いいか、俺は別におめーのこと嫌いで断ったんじゃ…だから……行くなよ。ここに居ろよ!」

精一杯のゼフェルの言葉だった。

「ゼフェル様…痛いです」

「あっ!わ、悪かったな……」

ゼフェルは彼女の手をあまりにもぎゅっと握りしめていることに気づき慌てて放した。

少し微笑む彼女を恥ずかしそうに見ながらゼフェルは言った。

「だから…その…あの日は気が向かなかったっつーか…」

「じゃあ今日は気が向いたっていう事なんですか?」

おかしくなってアンジェリークはクスクスと笑いながらゼフェルに訪ねた。

「あ、ああ!そうだよ!今日はたまたま気が向いて。これから今日一日、おめーと過ごしてもいいかなって……そう思ってサ」

「はい!ありがとうございます!」

「そんなに喜ぶなよ……別に大したことじゃねえよ」

「いえ!特別な事なんです!」

「そうなのか?……そうか。なんかそー言われると……」

ゼフェルは目一杯照れながら頭を掻いた。

「ところでゼフェル様?」

「あ?なんだ?」

「次の日の曜日も……その…気が向いてくれるんでしょうか?」

「え!?あ……ああ……あの……」

目を反らしたままなかなか答えられない。
ゼフェルは急に立ち上がりアンジェリークに背中を向けて答えた。

「ああ、…たぶんな」

アンジェリークは嬉しさのあまり立ち上がりゼフェルの背中にぎゅっと抱きついてしまった。

「や、やめろ!!」

「いえ、やめません……」

「ちぇっ…少しだけだぞ……」

そのまま背中に彼女を感じながら前に回されたアンジェリークの両手をそっと掴んだ。

「もう、……放さねーからな」  end



咲紀様曰く「1103様の黒猫ゼー様を見て、一気にイメージが沸いて書き上げた」というお話です。
かわいいvvとにかくかわいい〜〜(絶叫)
後ろから抱きつくアンジェがとっても葉月のツボなのです!!
ゼフェル様もマルセル様もランディ様もみーんなかわいくてますます年少組ラブ度が上がりました。
(でも本命はルヴァ様vv)
咲紀様、かわいらしい開設祝いをどうもありがとうございました。
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