暖冬           如月 彰様




高倉 花梨は自分の部屋から庭を眺めていた。
竜神の神子と呼ばれていた時もあったが、無事に役を終えて天の白虎でもあった藤原幸鷹の誘いのままに、現世に戻らずに京に残った。
今は星の一族である紫姫の御殿で暮らしている。
「紫姫。本当に雪がよく降るね」
「このように雪が積もっては、神子様も外出できなくて残念でございますわね」
そう言いながら穏やかに微笑む紫姫に花梨は少し眉を顰めた。
「もう。私は神子じゃなくなったんだから、花梨って呼んでいいんだよ?」
「ですが、お役目を無事に終えられても、私にとって神子様は神子様ですわ」
この会話をいったい何回繰り返したことであろうか。
花梨としてはもっと気楽にして欲しいのに、紫姫は花梨を神子として崇める事を止める気配は無かった。
「何だ、お主ここにいたのか。幸鷹殿がお見えだ」
紫姫の兄である深苑がそう告げると
「あ、いけない!」
花梨は慌てて、隅にあった箱を取ると駆け足で部屋を出て行った。
「貴族の姫となったというに、あの落ち着きの無さはどうにかならぬものか」
「まぁ、兄様。そのような言い方をなさってはいけませんわ」
「紫、お主は甘すぎるのだ」
深苑の愚痴を紫は笑顔で受け止めていた。

「花梨殿。何かあったのですか?」
幸鷹は遅く現れた花梨を心配していた。
「あ、そういうことじゃないんです」
実のところ、花梨は駆け足ですぐに幸鷹が待っている部屋には来ていたのだが、入るのに多少の躊躇いがあって遅くなってしまったのである。
「どうしたのです?」
先ほどから落ち着きの無い花梨に幸鷹は不安そうに声をかける。
「あ、あの、幸鷹さん、これ!」
意を決して勢い良く箱を幸鷹の前に出した。
「…これは?」
「幸鷹さんがお誕生日なので…その、何かプレゼントをしようと思って」
顔を赤らめて言う花梨に思わず幸鷹の顔から笑みがこぼれた。

幸鷹は京に残ることを選んだ。
選んだ道を後悔する事は無かったが、花梨の事だけは気がかりだった。
本当は帰りたかったのではないだろうか?という疑問がいつも頭を過ぎっていたし、この事で自分を恨んではいまいかと悩んでいた。
だが、目の前の箱を見てその気持ちが嘘のように消えていた。

「開けてみてもよろしいですか?」
「はい…」
幸鷹が手際よく開けると、そこには小さなお守りが入っていた。
「お守りですか?」
「えぇ。色々考えたんですけど、幸鷹さんのお仕事からして危険なこともあるだろうからと思って、それにしたんです」
「そうですか。ありがとうございます」
幸鷹はそのお守りをゆっくりと手に取り、袂に入れた。
「これでより一層、勤めを果たせそうですね」
「そう言ってもらうと嬉しいな」
「こちらから、庭を眺めませんか」
「はい!」
幸鷹の優しい手招きに、花梨は嬉しそうに傍に寄った。
「ハッピーバースディ!幸鷹さん」
「ありがとう…花梨」
幸鷹から優しく呼ばれる名前に、花梨は顔を綻ばせて幸鷹の胸へ顔をうずめる。
「ずっと…離さないでね」
「もちろんですよ」
確かな温もりをお互いが感じながら、雪が降る光景をいつまでも眺めていた。

− 終 −



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たなぼたで頂いた作品(笑)。
葉月が「うわーん、ゆっきーお誕生日創作間に合わないよーー(>_<)」と泣き叫んでいたら、 あまりに不憫に思ったのか、即興で仕上げて送って下さいましたvv
しかし、後で聞いたこの作品の裏事情は本人の名誉のために伏せさせて頂きます(笑)


らぶらぶゆっきーと花梨ちゃんvv
何度読んでも最後のシーンで照れてしまいます。
花梨ちゃんうらやましい。。。。(/_;)

如月様、素敵な作品をどうもありがとうございましたvv