Reading 如月 彰様
Reading1 パラパラと本を捲る音がする。 地の守護聖・ルヴァは読書が趣味である。 ルヴァにとって本とは知識を得る為の物であり、自由に動けない聖地においてあらゆる所を見る為の物でもある。 そんなルヴァの所には絵本から重要文献までありとあらゆる書物があった。 しかし、手元にあるだけでは満足できずに興味が湧いた本は遠くの惑星からでも取り寄せていた。 これだけ本を読んでいるルヴァに困ることはないと思っていたのだが…。 「こんにちは、ルヴァ様!」 金の髪の女王候補・アンジェリークは元気良くルヴァの執務室を訪ねた。 「あぁ、いらっしゃい。あなたがここに来てくれるのを待っていましたよ」 ルヴァに歓迎されて嬉しそうに笑うアンジェリーク。 そして、自分で言った言葉に頭が真っ白になりそうになったルヴァがいた。 「あの、今日は育成をお願いします」 「あぁ、育成ですね。どのくらいがいいですか?」 「少しでお願いします」 「育成を少しですね。分かりました、あなたの願いはちゃんと叶えますからね」 「ありがとうございます。では、失礼します!」 アンジェリークは元気良く言うとすぐに振り返り、ドアへと向かって行った。 「え…あ…」 ルヴァは何かを言いかけたのだが、それがアンジェリークの耳にも届くはずもなく、そのまま執務室から出て行ってしまった。 Reading2 ルヴァはアンジェリークが出て行ったドアをどのくらい見つめていただろうか。 本の捲れる音がして、ルヴァはハッと現実に戻った。 「あぁ…。どうしたんでしょうねぇ、私は」 そう言って、椅子に座り再び読書を続けようとした。 しかし、1点を見つめたままで字を辿っている気配は全くないようである。 ルヴァの頭の中では先ほどのアンジェリークの笑顔がずっと、離れずにいた。 最初にルヴァがアンジェリークを見た時は頼りない『女の子』という印象しかなかった。 それが、アンジェリークの持ち前の明るさと前向きな姿勢が徐々に『女の子』から『女王候補』へと変化していったのだ。 ルヴァはそれを嬉しく思っていたし、サクリアも必要以上にアンジェリークの大陸へ注いでいた。 執務室で会うのを心待ちにし始めたのは、つい最近のことである。 それが何故なのかは、ルヴァ自身よく分かっていなかった。 いや、目を背けていると言った方が正解かもしれない。 「どうも、落ちつきませんねぇ…」 読書に乗り気がおきないルヴァは立ちあがり、窓に視線を流す。 聖地はいつも天気が良く、今日も明るい日差しが窓から注がれていた。 「あぁ、良い天気ですねぇ。散歩でもしてきましょうか」 ルヴァはそう呟くと、お気に入りの本を片手に持ち、ゆっくりとドアへ向った。 静かにドアを開けて閉めると、鍵をかけてゆっくりと外へと歩いて行った。 Reading3 外は暖かく、散歩には適していた。 ルヴァはゆっくりと歩いていたが、ふと公園に行くことを思いつき歩みを進めた。 公園には恋人同士でベンチに座ってもいたが、そこである2人がルヴァの目に飛び込んできた。 アンジェリークと緑の守護聖・マルセルである。 噴水の縁に座り楽しそうに2人は話していた。 それを見たルヴァは、動揺を隠すことは出来なかった。 いつもなら2人に優しく声をかけれるのに、今日はかけられない。 マルセルに怒りすら覚えてしまうのだ。 「あ、ルヴァ様!」 マルセルが声をかけたのにルヴァの耳には届かず、その場から逃げるように立ち去ってしまった。 「あれ…行っちゃった。僕の声が聞こえなかったのかなぁ」 「ルヴァ様…。どうしたんでしょう?」 アンジェリークが心配そうにルヴァの立ち去った方を見る。 「きっと、夜遅くまで本を読んだり研究をしたりして、少し疲れているのかもしれない。あれは土の曜日に作るんだよね?きっと、ルヴァ様は喜ぶと思うよ」 マルセルは微笑んでアンジェリークを励まそうとした。 「そう…ですね!私、頑張ります!」 マルセルの励ましにアンジェリークは元気良く答えた。 その頃、ルヴァは走って自分の執務室へと戻り、入った時点で息があがっていた。 ルヴァが走ることなど滅多にあるものではなく、見かけた者がいたら驚いたに違いない。 「…これは…嫉妬なのでしょうか…」 そう呟きながらルヴァは床に座りこんでしまう。 とうとうルヴァは自分の気持ちを、アンジェリークに恋をしていることを認めてしまったのだ。 Reading4 ルヴァは自分の気持ちを認めてからというもの、執務室へ行くのが億劫になっていた。 守護聖と女王候補という立場を認識しているルヴァは、アンジェリークに会いたいと思う反面、この気持ちが募ることを恐れていた。 女王試験は後半に差し掛かっていて、アンジェリークの方が有利であった。 アンジェリークを女王にした方がいいとルヴァは考えていたが、心のどこかで拒否をしていた。 できれば、願わくば、全宇宙の民の為にではなく、自分の為に笑って欲しいとルヴァは思ってしまうのだ。 結局、アンジェリークを避けたまま日の曜日を迎えた。 ルヴァはいつも通りの時間に起き、執務室へと来た。 日の曜日は休みなので、当然宮殿は静まり返っている。 静かな方が心が落ち着くだろうと思い、お茶会も断ってここに来たのだ。 執務室にある惑星儀をクルクルと回し、それをただ漠然と眺めていたその時である。 ノックの音が静かな部屋に響き渡った。 「は、はい。開いてますよ」 ドアを凝視しながらルヴァは躊躇いがちにそう言った。 カチャッと音を立てながらドアはゆっくりと開き、アンジェリークがおずおずと顔を覗かせた。 ルヴァは動揺したが、久しぶりに会えた嬉しさでいっぱいになっていた。 「あの…。おじゃましてもよろしいですか?」 アンジェリークは不安そうにそう言った。 「え…えぇ。どうぞ」 ルヴァがそう言うと、アンジェリークはドアを閉めてルヴァの側へと近づいた。 Reading5 近づいてくるアンジェリークにルヴァは少々不安にかられていた。 そんな事は知らず、アンジェリークは後ろ手に隠していた物をルヴァに差し出した。 「あ、あの。これはいったい?」 ルヴァは小さなカゴに入っていたマフィンを覗きこんだ。 「ブルーベリーマフィンです。いつも読書をされていると聞いたので、マルセル様からブルーベリージャムを分けて頂いて作ったんです。ブルーベリーは目に良いっていうから、ルヴァ様に食べて頂こうと思って…」 アンジェリークの言葉にルヴァはこの前の公園での光景が思い浮かんだ。 そして、やっとそのことに納得が出来たのだ。 「そう…ですか。私の為にわざわざ作ってくれたんですねぇ。ありがとう、アンジェリーク。とても嬉しいですよ」 満面の笑みをルヴァは浮かべ、アンジェリークもルヴァの笑顔を見て安心したようで、笑みを返した。 「良かった。喜んで貰えて嬉しいです」 「折角ですから、これを持って森の湖でも行きましょうか?外で食べたらきっともっと美味しいと思うんですよ?」 「わぁ!いいですね。ルヴァ様、行きましょう!」 アンジェリークの笑顔を見て、またルヴァは胸が熱くなる。 ルヴァは水筒にお茶を入れると、お気に入りの本と一緒に抱えた。 そして、アンジェリークと一緒にゆっくりと執務室から外へと歩いて行った。 歩きながら、最近あったこと等他愛もない話をするのがルヴァは楽しくてたまらなかった。 宮殿から森の湖までは結構な距離があったのだが、あっという間に着いてしまった。 Reading6 森の湖は相変わらず穏やかで、日の曜日だというのに誰もいなかった。 ルヴァとアンジェリークは湖が一望できる木の側に座る。 アンジェリークはカゴからマフィンを取り出しルヴァに渡した。 ルヴァはマフィンを食べると、美味しさに笑みがこぼれる。 「あぁ、アンジェリーク。とても美味しいですよ」 ルヴァは一気にそれを食べてしまい、水筒からお茶を汲んで飲み干した。 「良かった。ルヴァ様の目も疲れが取れるといいですね」 「…アンジェリーク」 アンジェリークの言葉についにルヴァは決心したのだ。 「アンジェリーク。私がこんなことを言うのは迷惑なことかもしれません。あなたと初めて会った時から今まで、あなたをずっと見てきました。 笑顔を見る度にとても嬉しかった。だけど、最近は苦しくなってきたのです。 私は…あなたを女王にしたくない。ずっと私の側にいてほしいのです」 ルヴァの告白にアンジェリークは瞳を潤ませていた。 「ルヴァ様…私、ルヴァ様が好きです。ずっとお側にいさせてもらえますか?」 今度はアンジェリークの告白にルヴァが驚いた。 ルヴァは断られることを前提に話をしていたので、受け入れてくれるとは思っていなかったのだ。 ルヴァはしていたターバンを外し、アンジェリークをそっと抱き締めた。 「えぇ…えぇ、もちろんですよ。私達はこれからずっと共に生きて、そして笑っていきましょうね?」 「はい…ルヴァ様」 「このターバンを外すのは生涯の伴侶の前だけなのですよ」 ルヴァはアンジェリークを腕から解放すると同時にそのターバンを手渡し、アンジェリークと誓いの接吻を交わした。 2人を静かに風が祝福していた。 − END − *********** 以前、如月様のサイトでキリ番前後賞としてむりやりおねだりして書いて頂いた作品です。 このたび如月様のサイトの閉鎖に伴って、当サイトで展示させて頂こうとお願いしたら、快く了解を頂き、しかも一部改訂を頂いています。 優しい如月につけこんで「ルヴァリモ甘甘(はぁと)」というリクをして、悩ませてしまいましたが、こんなに優しく暖かいお話を頂きました。 なんというか、これぞアンジェリーク!というお話でとってもうれしかったです。 如月様、どうもありがとうございました。 |