近くて遠い萩の花     如月 彰様 

「幸鷹さん。お散歩に行きませんか?」
「散歩…ですか?」
朝、紫姫の館に来た早々に藤原 幸鷹は龍神の神子・高倉 花梨にそう言われた。
「そうです。石原の里に行きましょう」
そう言って花梨は幸鷹の返事も聞かずに外へと向かった。
「あ、神子殿。お待ち下さい」
慌てて幸鷹は花梨を追って行った。
「今日は天気が良いですね」
「最近、雨が続いていましたからね。晴天は気持ちの良いものですね」
「はい!」

話しているうちに石原の里に2人は着いた。

「神子殿。今日はどうしてここに?」
幸鷹の質問に花梨は答えず川辺に行ってしゃがみ込むと水を掌で掬った。
「…神子殿?」
幸鷹の呼びかけに花梨は振り返りもせず、ボソッとこう言った。
「幸鷹さん。ここでのこと覚えてます?」
「ここでの?…えぇ、覚えていますよ」
花梨にそう言われ、幸鷹は顔を曇らせた。

あれ以来、幸鷹は仕事に託けて花梨を避けていた。
たまに来ても他の八葉に任せて遠ざけていたのも事実であった。
しばらくの沈黙が続き、花梨はいきなり立ち上がって濡れた手を幸鷹に向かって振った。
小さな水飛沫が幸鷹の顔にかかる。
「神子殿!?いったい何をするんですか」
「幸鷹さん、元気だして下さいね。最近、お仕事が忙しいんでしょう?会ってもずっと暗い顔してたし…。今日くらい、何も考えずにゆっくりしましょうよ。ね?」
花梨に笑顔でそう言われ幸鷹は驚いた。

避けていたのは、触れたいのに触れる事のできない苦しさから逃げたかったから。
その気持ちを知られたくなかったから。

それを責めもせず、花梨は幸鷹を労わったのだ。
「神子殿…私はあなたが神子殿で良かったと本当にそう思えるのですよ」
「幸鷹さん…」
穏やかな笑顔でそう幸鷹に言われ、花梨は頬を染めてしまう。
「おや?神子殿。顔が赤いですよ?熱でもあるんじゃないですか?」
真剣にそう言って幸鷹は花梨に近づいた。
「あ、ダメです幸鷹さん。触れてしまったら痛みが」
花梨はそう言って手でこないように制止させようとした。
そう言われて幸鷹も一瞬動きが止まったが、また笑顔になって花梨に近づき始めた。
「大丈夫ですよ、神子殿」
「で、でも。幸鷹さんの痛がってるところは見たくないです」
「優しいのですね」
幸鷹は花梨にあと1歩で触れられるというところまで来た。
「神子殿。今は私はあなたには触れません。でも、いつか私の気持ちが決まったら、あなたに触れても良いでしょうか?」
「え…幸鷹さんがそれでいいのでしたら、私は構いません」
幸鷹の言葉に花梨は驚きはしたが、笑顔でそう返事をした。
「ありがとうございます、神子殿。風が冷たくなってきたのでそろそろ館に戻りましょう」
「はい、幸鷹さん」
笑顔で花梨は返事をすると幸鷹の前を歩いていく。
「…あなたの笑顔に、私は救われているのですよ」
「え?何か言いましたか幸鷹さん」
「いいえ。さぁ、行きましょうか」
夕暮れの中、2人は笑顔で館へと戻って行った。
幸鷹の心の中で徐々に決意は固められつつあった。 
 − 終 −





如月彰様から開設祝いにと、葉月の遙か2でのファースト様、幸鷹さんのお話を頂きました。
なんと如月様の初遙か創作!!恋愛イベントを思い出して葉月はどきどきでした(*^^*)
素敵な作品、どうもありがとうございましたvv
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