月夜の散歩


「おやー?ディアじゃありませんか?」

月に誘われて夜の散歩をしていたルヴァは、前方の道端に佇む人影を認めて声をかけた。
「まあ、ルヴァ。こんなに遅くにどうなさったの?」

振り返って声の主を確認し、まるで自分のことを棚にあげた質問をする。
案の定、ルヴァは苦笑して答える。

「他人事のようにおっしゃいますね。私は本を読んでいたら眠れなくなってしまいまして。窓の外を見たらあんまりにも月が美しいので、お散歩しにきたんです」
よろしければご一緒しませんか?と微笑む。

ディアになにかあったのだろうと気付いていても、そのことには全く触れずに。


(言いたければ、自分で言うでしょうからね。わざわざ問いただすことでもありませんし)


このおおらかさ、この人物のまれに見る異才ぶりの一端なのだろう。


「…そうですね、ご一緒していただけますか、ルヴァ『様』」
今では呼ぶ事のなくなった呼び方で地の守護聖を呼び、女王補佐官ディアはいたずらっぽく微笑む。

「おや。まるで女王候補のようですね?」
「そうです、私も元女王候補の一人ですよ?お忘れですか、ルヴァ様?」
「いえいえ、忘れてなんかいませんよ。ただ、その…ちょっと驚いただけです」
「ご迷惑ですか?」
「そんなことはありませんが…ちょっと恥ずかしいですね」

穏やかな微笑を浮かべていて、表情から本心は読み取れない。
ただ、恥ずかしいなどとは微塵も思っていないのは確かだった。
長いこと聖地において神様のようにあがめられていては、ちょっとやそっとのことでは動じない性格が構成されることは間違いない。

「そうしたら、今日は女王候補ディアとデートしてくださいません、ルヴァ様?」
「よろこんで。では参りましょうか」

ルヴァはおどけて大仰な身振りで手を差し出し、ディアはその手をとる。


しばらく無言でならんで歩いていたが、やがてディアがぽつりぽつりと語りだした。


「ライ様のことを思い出していました」
「そうですか」


ライとは、現鋼の守護聖ゼフェルの前任者であった守護聖である。
ライと女王候補時代のディアは仲がよく、当時はよく二人で聖地内を歩いている姿が見られたものだ。

そう、ディアが正式に女王補佐官に任命される日までは。



そして、ライは急激なサクリアの消失とともに聖地から去った。
ディアに思い出のつまった手製の小箱を残して。




「お聞きにならないんですのね」
「なんのことです?」
「あの頃、ライ様と何があったのか、を」
「言いたくないのでしょう?あなたが言いたくなったらいつでも聞きますから」
「…ルヴァ様、ずるいです」
「そうですかね。こう見えても、あなたよりもずっと長く生きていますから。大抵のことは許せるんですよ」
「許す、ですか?」
「そうですよ。人は、自分と他人を許しながら生きていく生き物なんです。それができなくなったら、終りです。生きつづけることができなくなるんですよ」

ディアは手にしていた小箱に視線を落とした。



……自分はあの人を許すことができたのだろうか?



うつむいてしまったディアに気付かない振りをして、ルヴァは語り続ける。

「ですからね、あなたが今ここにこうして彼のことを思い出せていると言うことは、もう許している、ということなんですよ」
自分の考えに大仰にうんうんと頷きながら、にっこりとディアに微笑みかける。

辺りの闇は深くて、月明かりだけでは実はその表情はあまり見えなかったのだけれど、ディアには伝わった。
自分を慰めてくれていることが。


(私にはあの方がいなくなっても、この聖地の人々がいる。そして、陛下と共に守ると決めたこの宇宙が…。ああ、このように考えられると言うことが、許している、ということなのでしょうか)


「ありがとうございます、ルヴァ様」
「おや、何を言ってるんですか?お礼を言われるようなことはしていませんよ?」
「それでも、ありがとうございます」

相変わらず読めない表情で、穏やかに微笑むルヴァに、ディアは頭を下げた。
全てを見透かしているのか、それとも本当に気付いていないのか。
ディアにとってはどちらでもよかった。自分が、その言葉に助けられたのは確かだから。


「ああ、月が綺麗ですね」
「ええ、ほんとに」
「聖殿まで、もう少しお散歩しながら帰りましょう。お送りします」
「ありがとう、ルヴァ」

すっかり女王補佐官の顔にもどったディアとルヴァは、聖殿への道を辿り始める。


二人の後姿を、やわらかな月の光が照らしていた。 (fin)






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あとがき。

1230キリ番を踏んでくださったまーや様のリクは
「ルヴァ様とディア様のほのぼのストーリー」
でした。


どうしてこのリクがこんな話になるんだぁあああ?
ほんとはラブコメのはずだったのに(しくしく)
最近創作書いてないので、ラブコメの書き方忘れてしまったようです。
そして趣味に突っ走りました。
頭が遙か2の今の葉月にルヴァ様を書かせるとこうなりますという見本です。

かろうじて、「ディア様女王候補時代の思い出話」らしきものはいれてみましたが、果たしてこれでリクにお応えできているのか疑問。。。
個人的にはこの話、かなり好きなんですが^^;
(で、書いてしまってから思ったのだけど、果たして聖地に「月」はあるんだろうか?)

お師匠様、こんなので申し訳ありませんが、よかったらもらってやってください。
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