いつか来る日まで 如月 彰様 地の青龍・森村 天真は土御門の御殿の庭にいた。 だが、ジッと座っているかと思えばウロウロと歩いてみたりで落ち着きがない。 「天真殿?いかがなさいましたか?」 星の一族の末裔・藤姫が見るに見かねて声をかけた。 「あ?あぁ、藤姫。別に何でもねぇんだけどよ」 「しかし、先程から落ち着きがないように思われます。私で良かったらお聞き致しますわ」 藤姫にこう言われてはさすがに天真もはねつけることはできない。 「そうか。じゃ、聞いてくれるか?」 「はい。よろしいですわ」 藤姫も天真の返事に嬉しくなったようである。 天真は藤姫の近くに座り、話そうとするのだがやはり上を向いたり横を向いたりと話し出せずにいる。 藤姫はただひたすら何も言わずに待っていた。 どのくらい時間が経ったのだろうか。 静かな時間と言うのは非常に長く感じるものである。 「あのよ、実は…詩紋のことでさ」 ようやく天真は話を始めた。 「詩紋殿のことでございますか?」 「あぁ、あいつほら、あの外見だろ?俺としては外に気晴らしでも連れてってやりたいんだけどさ。出て行くの拒まれちまってよ。どーしたらいいか分かんねーんだよな」 頭を掻きながら照れたように天真は言った。 藤姫は天真の思いやりに微笑を浮かべる。 「まぁ、天真殿はそのようにお考えだったのですね。私、嬉しく思いますわ」 「何で嬉しーんだよ。詩紋は塞ぎ込んでるかもしれないってのによ」 笑みを浮かべる藤姫に食って掛かるように天真は言った。 「いいえ。天真殿の優しいお心が嬉しいのです。きっとそれは詩紋殿にも伝わっている筈ですわ」 「そうかな…」 不安そうに天真はそう言って俯いてしまう。 「そんなところで何してるの?天真先輩」 「し、詩紋」 ふいに地の朱雀・流山 詩紋に声をかけられ天真は顔をあげ、うろたえてしまう。 「まぁ、詩紋殿。いかがなさいましたの?」 藤姫は詩紋に優しく話しかけた。 「うん。ずっと部屋に居たんだけど、ちょっと外の空気を吸おうかと思って」 「それでしたらお庭に出てみてはいかがですか?後で美味しいお菓子を用意させますわ」 「ありがとう藤姫。じゃ、ちょっとお庭で散歩してくるよ」 「えぇ、天真殿もご一緒にいかがですか?」 藤姫は天真の目を見つめながらそう言った。 「あ、あぁ、そうだな」 「じゃ、一緒に行こうよ。天真先輩」 天真と詩紋は庭に出た。 ただ黙って歩いていたのだが 「天真先輩。さっきはごめんなさい」 と詩紋が急にそう言って天真に向かってお辞儀をした。 「いいんだよ。無理に誘って悪かったな」 天真は詩紋のお辞儀を制してゆっくりと顔を上げさせた。 「まだ僕、外に出るの怖いんだ。だけど、今度は頑張るからまた誘ってください」 詩紋の真面目な言葉に天真は驚きはしたが 「頑張らなくてもいいんだ。お前が行きたい時に、俺が付き合うからさ」 と優しく言った。 「うん。ありがとう、天真先輩」 「さ、戻るか。藤姫がなんか用意してくれるって言ってたしよ」 またゆっくりと元来た道を天真と詩紋は戻っていった。 「お帰りなさいませ。お菓子をご用意いたしましたわ」 藤姫が笑顔で天真と詩紋を迎えた。 「ありがとう藤姫。今度、僕が作ったお菓子を食べてくれると嬉しいな」 「まぁ、それは楽しみですわ。ぜひ、作った時は持ってきて下さいませね」 「うん。僕、美味しいもの作れるよう頑張るよ」 藤姫と元気に話す詩紋を横目に見ながら、嬉しそうに天真は用意された菓子を頬張る。 そして天真は詩紋がいつか自分を誘ってくれることを願うのだった。 − 終 − |