Careless mistakec           如月 彰様


鋼の守護聖・ゼフェルは執務をサボって森の湖へと向かっていた。
リモコンとカイトを手に嬉しそうに歩いているところをみると、作ったメカの試運転らしい。
それを遠くから見ていた者がいたとはゼフェルはまだ知らなかった。

森の湖に着いたゼフェルは、芝生に座るとリモコンを手にカイトを操作し始めた。
真っ青な空に銀色のカイトはよく映えていた。
「またサボってんの?ゼフェル」
緑の守護聖・マルセルが声をかける。
「おー…お前だって何してんだよ?」
そう言いながらカイトから目を放す気配は無い。
「ん?僕は執務も終わったから散歩してたんだよ」
そう言ってマルセルは芝生に寝転がり、優雅に空を泳ぐカイトを見ていた。
「きれいだねー…」
そう呟いたマルセルに
「そうだろう!!あれはなー、俺が作った」
「ゼ、ゼフェル、ちゃんと見ないと落ちちゃうよ!」
ゼフェルはマシンの説明をしようとしたが、急にぐらついたカイトに慌ててマルセルは指差して操作を促した。
「いけね」
ゼフェルはリモコンを持ち直し、カイトのぐらつきを直した。
そして、そのままカイトを自分の手元まで操作してしっかりと掴んだ。
「どうだ?なかなかいけるだろ?」
「うん。結構自由に運転できるんだね」
「あぁ、これはだなー……」
滅多にできない説明のチャンスを逃すものかと、ゼフェルがマルセルに一気に説明しようとした時である。

「良い天気ですねぇ…ゼフェル」
「ル…ルヴァ!?」
声の方を振り返って見ると地の守護聖・ルヴァが満面の笑みを浮かべて立っていた。
執務をサボっただけに、その笑顔はゼフェルにとって不気味以外の何者でもない。
「ぼ、僕、用事思い出しちゃった。ルヴァ様、失礼しまーす!」
そう言って顔をひきつらせたマルセルは足早に去って行った。
「おい!マルセルてめー!」
「ゼフェル」
マルセルを引きとめようとしたゼフェルではあったが、やんわりとルヴァが制した。
ゆっくりと近づくルヴァにゼフェルは息を呑んだ。
「簡単に捕まってたまるかよ!」
そう叫ぶとゼフェルはすぐに立ち上がり、ルヴァの隙を衝いて一気に駆け出した。
「こ、これ、ゼフェル!」
「へっ、ザマーミロ」
ゼフェルはどうにかルヴァを巻いて事無きを得たかのように見えた。

「ゼフェル!執務を怠けるとはどういうことなのだ!!」
森の湖の出口で光の守護聖・ジュリアスと出くわしてしまったのである。
「げっ!?ジュリアス」
前にはジュリアス、後ろにはルヴァが追いかけている。
ゼフェルは仁王立ちしたままジュリアスを睨みつけた。
「観念する気になったようだな」
「……ゼフェル〜……はぁ、ようやく追いつけましたねぇ」
ルヴァの足音が近づいた時に
「じゃぁな!」
と大声でゼフェルは言い放ち、ジュリアスの脇を抜けて走り去ろうとした。
「待て!ゼフェル」
「あぁ〜、ゼフェル。待って下さい〜」
後ろからするジュリアスとルヴァの声を聞きながらうまく逃げれたと思ったその時である。
ガシッと腕を捉まれる感覚があった。
「よぉ、何してるんだ。ゼフェル?」
「オスカー、てめー!!」
ゼフェルを捉まえたのは炎の守護聖・オスカーであった。
「よくやった、オスカー」
「あぁ…オスカー、ゼフェルをよく捉まえて下さいましたねぇ」
「ジュリアス様にお役に立てて嬉しく思います」
「ケッ!!」
ゼフェルは悪態をつくが、捉まってしまっては仕方が無い。

「はい、ゼフェル。今日の執務分の書類ですよ。後、勉強も随分やっていませんからねぇ。こちらもゆっくりやって行きましょうねぇ」
「分かったよ!」
ブツブツ言いながらもゼフェルは書類を片付けていた。
「にしてもよ〜。何で俺が森の湖にいるって分かったんだよ」
ゼフェルがそう聞くと
「あぁ、それはあれが窓の外から見えたからですよ」
カイトを指しながらルヴァは笑顔で答えた。

ゼフェルが執務から逃げ出したことが分かったルヴァは、こっそり探しているつもりだったが、あちこちで聞いていれば自然に全体に知れ渡る。
当然それはジュリアスの耳にも入ってきていた。
探している最中にルヴァはふと窓の外から森の湖で揚がっているカイトを見かけ、急いでそこへ向かった。
そのルヴァを見かけたジュリアスが静かに後を追っていて今回の状況となったのである。

自分がルヴァ達に知らせてしまっていたと分かり、ゼフェルはより一層憮然とした顔になってしまう。
「さぁ、今度はこの書類ですよ」
「うっせーな。分かってるよ!!」
執務が終わるまで、ルヴァがゼフェルの傍を片時も離れなかったのは言うまでも無い。

− END −
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