昼下がりの歌のあと


ヴァイオリンの弓が舞う。

高く高音がきらめいて、曲が終わった。
音の余韻を充分に残して、ゆっくりと構えを解く。

室内の静けさを最初に破ったのは、かわいらしい声と盛大な拍手。
アンジェリークだ。

「うわーーー、ロザリア、すごーーい!!」

「うん、すごいね!!ね?ゼフェルもそう思うでしょ?」
拍手しながら続けるのは、緑の守護聖マルセル。

「まあ・・・悪くは無いな」
一見褒めていないようなこの言葉は、ぶっきらぼうな鋼の守護聖ゼフェルにしては格段の称賛である。
(当然ながら腕は組んだままであるが)

「お、ゼフェル、もしかして照れてるのか?」
「ば、馬鹿いってんじゃねーよ!」
ゼフェルに構わないでいられないのは、風の守護聖ランディ。
一旦拍手していた手を止め、いつでも臨戦体勢に入れるようにして。

「こーら、お子様達。こんなところで喧嘩はじめるんじゃないよ?せっかく素敵な演奏聞いていい気分なんだからね?」
「そうだ。レディの前で喧嘩なんて、紳士たるものもってのほかだ。そんなことをしてるとモテないぜ、坊や達」
夢の守護聖オリヴィエと炎の守護聖オスカーがさりげなく二人の様子に釘をさす。

「坊やってなんだよ!おっさん!!」
「お、おっさん!?おい、ゼフェル…」
「オスカー、大人気ありませんよ。ゼフェルも挑発しないで。この素晴らしい演奏の後になぜ争うことなどできるのでしょうか」
「リュミエール様…」
割り込んできた声に、自分も抗議しようとしかけていたランディはあわてて言葉を飲み込む。
この優しい水の守護聖に悲しい顔をさせてしまうのは本意ではない。
…このあたりがランディがおひとよしといわれる所以である。



「…あいかわらず騒々しい」
闇の守護聖クラヴィスがこぼすと、珍しく隣の光の守護聖ジュリアスが同意した。
「まったくもって嘆かわしいことだ。この芸術が理解出来ないとは。…ロザリア、良い演奏であった。久々に良い音楽を聞いたぞ。腕をあげたな」


それまでタイミングを失っていた(なにせ、いきなり目の前で喧嘩寸前になってしまっては立場がないと言うものだ)
演奏者の少女−ロザリアは、一礼する。

「ご静聴ありがとうございました。私のつたない演奏にはもったいないお言葉。とても嬉しいですわ」
「もったいなくなんかない!ほんとに素敵だったもの。いいなぁ、ロザリアってほんとに何でもできるんだねーー」
「そんなことを言ってないで、アンジェリーク。あなたはもう少し教養を磨いたほうがよろしくてよ」
「えええ、ロザリアぁーー」
「フフフ。相変わらず仲がよろしいこと。よいことですね」
「ディア」
「「ディア様」」

声をかけてきたのは、今日、この場所でお茶会を開こうと発案した人物、女王補佐官ディアである。
たまには女王候補と守護聖が打ち解ける場を設けたいという計らいで、定期的に開かれるこのお茶会は、
無言のうちに守護聖強制参加のようになっているのである。
ここでは各自がそれぞれ特技を披露することも多かった。
リュミエールがハープを弾いたりすることが多いが、ゼフェルが新作メカを自慢することもある。
今日はなんとなく話の流れで、ロザリアがヴァイオリンを弾くことになったのだ。

「ロザリア、素晴らしい演奏でした。素敵な時間を下さってどうもありがとう」
「いえ、最近はあまり練習も出来ていませんので。でも、お褒めいただき嬉しく思いますわ」
心から嬉しそうな表情をするロザリアを見て、周囲もなごやかな雰囲気になる。

「あれ?ディア様、そういえばルヴァ様は?」
マルセルがふと地の守護聖の不在に気付いた。

「あら、そういえばいませんね?おかしいわ、今朝会ったときには『午後のお茶会は楽しみにしていますね』なんて言っていましたのに」
「ルヴァ?また本読んでるうちに寝ちまったんじゃねーの?」
「ゼフェル、『また』って、そんな」
「充分有り得ることだ。オスカー、行って様子を見てきてもらえるか?」
頭が痛いと言うそぶりで、ジュリアスはオスカーに指示する。

「は。では」
短く告げて、扉に向かう。

バターン!!

「ああっ、すみません!遅れました!!」
「おわっ!」

ちょうどドアノブに手をかけようとしていたオスカーは、外側から勢いよく自分の方に向かって開かれた扉にしこたま顔をぶつけることになった。
天下の色男もこれでは台無しである。

「いたたたた」
顔をしかめながら、扉を開けた張本人に恨みがましい視線を送る。

「ルヴァ、俺に何か恨みがあるのか?」
「ああ、オスカー、すみませんねー。大丈夫ですか?急いでいたもので申し訳ありません。ええと、打ち身に効くのは何の薬草でしたっけ…?」
「…もういい。大丈夫だ」
「ほんとうですかー?部屋に帰れば準備出来ると思うんですよー」
「だから、いいって!」
「そうですか…」

ここで、初めて部屋の中央の面々に気付いた様子のルヴァ。
向き直ってにっこりと微笑む。

「ああ、ディア、遅れてすみません。こちらに向かう支度をしていたらですね、頼んでいた新刊が届いたんですよ。それで…」
「…そんなことだろうと思いましたわ。私は構いませんが、残念でしたね。ロザリアの演奏はたった今終わってしまいましたのよ」
「それは残念なことをしました」
本気でがっかりした様子をみせるルヴァ。

「今度は私にも聴かせて下さいね?約束ですよ?」
「はい、ルヴァ様。喜んで。…あの、よろしければ、このままもう一曲弾きましょうか?」
「ほんとうですか?それは嬉しいですね」
にこやかに微笑んで。
それを見たアンジェリークが抗議の声をあげる。

「ああっ、ロザリアずるい!!自分だけ点数稼ごうとしてるっ!!」
「そ、そんなことなくてよ?」
「だって、さっきのロザリアの演奏、ほんとに素敵だったんだもん。もしかして、ルヴァ様が気に入っちゃったりなんかしたら…あああどうしよう!!」

本人を目の前にして騒ぎ立てるのもどうかと思うが、この場合二人とも下心めいたものがあるので仕方ない。
おっとりしていて、優しい地の守護聖は二人の女王候補の良き師であり、憧れの的でもあったのだから。

「ああー、喧嘩しないでくださいねー。仲良きことはうつくしきかな。平和が一番です」
いまいちピントがずれているような気もするが、なんとなく逆らい難い雰囲気があり、少女達はそれで沈黙した。

こほんと、ロザリアが咳払いをして場を正す。

「では、僭越ながら、もう一曲弾かせて頂きますわ」
「はい、よろしくお願いしますねー」








演奏後のルヴァの褒め言葉に、ロザリアが赤面しただとか、それにアンジェリークが異常に反応しただとか、その二人の様子を見てジュリアスが頭を抱え、年少・年中組の一部はにやにやしただとか、当のルヴァはひたすらおろおろしていただとか…そういったことは全て有能な女王補佐官の手によって秘密裏に処理され、翌日の宮殿内の噂になることはなかったと言う…。 (終)
















2000番を踏んでくださった夢川舞さまのリクエストは
「ロザりん&ディア様&ルヴァ様(&リモちゃん)でお茶会」でした。

なのに。
なんでオールキャストになってるんだろう・・・(それは逃げに走ったから)
しかも、オチがいまいちなような(夢オチレベル?/汗)
ええと…待たせるだけ待たせてこんな物しかかけなくてほんとに、ほんとにごめんなさい、夢っち!
やっぱり力量不足でした。
ごめんよぉ、夢っち(猛ダッシュで泣きながら逃走)
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