Card


「で。今回はどうしたって訳?」

手元のカードを捌きながら、目の前の一見落ち着いた様に見える青年に声をかけてやる。
この男は、そうでもしなけりゃ絶対口に出さないんだからさ。

「えええっ?私、まだ何も言ってませんよ〜?オリヴィエ、なんで何かあったってわかるんですか?」

……これだ。
ルヴァって人は、世の中では宇宙一の知識を持ってる大賢者ということになってるけど、私に言わせれば、単なる世間知らずのボケってところ。

普段めったに訪れない私の私邸に、
「オリヴィエ、珍しいお茶が手に入ったので、是非ご一緒しようと思いまして」
なーんて、ベタな理由つけて現われるんだから、そりゃ何かあったと思うに決まってるでしょ?
この男を神様よろしくあがめている研究院の連中あたりに、このボケっぷり見せてやりたいね、全く。

私は手を止め、軽く溜息をついて口を開く。

「あのね。あんたが先触れもなくここに現われるのは、アンジェがらみで何かあった時に決まってるでしょうが!」
「ええっ、そ、そんなことは…」
「あるでしょ」

ない、と言おうとしたんだろうけど、言葉を遮ってやる。
大体私は、はっきりしない性格を見てるといらいらしてくるんだ。
男ならはっきりしろ、って言いたくなってくる。
特に女の子を泣かすようなのは問題外。

だけど…この人はなーんか放っておけないのよね。
先手を打たれて、しゅんと口ごもってしまったその姿。
全く、天下の知恵の守護聖ともあろうものが情けない。

「大方、なんだかよくわからないけど、気付いたらアンジェが機嫌悪くなってて、『ルヴァ様のばか!』とか言われて帰られちゃって、でもそのままにはしておけないしって相談しにきたんでしょ」

一瞬目を丸くしぱちくりと瞬きすると、今度は上目づかいにこっそり私の顔色をうかがうようにルヴァが言う。
「…オリヴィエ、見てたんですか?」

ドン、ガチャリ。

「見てるわけないでしょうが!どーしてアンタ達の痴話喧嘩までいちいち私が付き合ってやらないといけないのよ!」

思わずテーブルを叩いてしまい、カップとソーサーがぶつかって音を立てる。
溜息二つ目。

「あの〜、オリヴィエ?」
「何よ?」
「やっぱり私、何かまずいことでもしたんでしょうか?彼女があんなに怒るなんて…やっぱり謝りに行くべきですよね?」
「謝りに行って、許してもらえると思ってるわけ?」
「いや、それは、その……でも、人間誠意をこめれば通じないことはない、なんて思うわけで、分り合うべく歩み寄る努力が必要かなぁなどと、その…」

…このまま放置しとこうかしら、この人。
一瞬頭の隅に悪魔の囁きがよぎる。


「じゃあ、行ってくれば。私のとこなんか来てる場合じゃないでしょ?」
「そうなんですが…でも、なんで彼女が怒っていたのかわからないんですよ。それでは根本解決にはなりませんから。オリヴィエ、あなたなら何かわかるんじゃないですか?」

そりゃわかるわよ。
むしろ、アンタ以外の男だったら誰でもわかるんじゃないの?
喉元までそう口にしかかったけど、言っても苛めてる気分になるだけだから止めた。
私も相当お人よしかもしれないね。

「で、アンタと彼女はどこで何してた訳?」
「アンジェリークが執務室に来て、『森の湖に行きませんか?』と誘ってくださったんです。でも私は急ぎの仕事があったもので、『今すぐはお相手できません』と答えたんです。いつも忙しい時は待って頂いてましたし。そしたら突然、部屋を走って出て行ってしまって…」


サイアク。


「今日は何の曜日?」
「日の曜日ですが?」

なぜ突然そんなことを聞くんだ?という訝しげな顔で答えるルヴァ。
いいから素直に答えてなさい、アンタは。

「彼女の今日の服装は?」
「は?」
「いいから答えて!」
「え、ええと…そういえば、確か制服ではなかったんですよね。そう、かわいらしい緑色のワンピースで、彼女の瞳の色に映えてとても綺麗だと…あ、いや、その…こほん」

わざとらしく咳払いなんかして、照れ臭いの誤魔化そうったって無駄だってば。

「…アンタさ、どうして、それを本人に言ってやれないの?アンジェも相当気合入れておしゃれしてきたんだろうに、この程度じゃ報われないよね。しかし、日の曜日に女の子がおしゃれしてデートに誘ってるのに、仕事を取るアンタの気がしれないよ、私は」
「ええええええっ!デ、デートに誘われていたんですか、私?!」
「それ以外のなんだって言うのよっ、全く!」

アンジェリーク、考え直したほうがいいんじゃない?
この鈍感男より私の方がお買い得だよ、と言いに行こうかしら。

溜息三つ目。

「いい?あんたが今からしなくちゃいけないことは2つ。まずは、町の花屋に行って、かわいい花束を買ってくること。そして、その花束を持って、彼女をデートに誘いに行くこと、以上、終り!」
「オリヴィエ」
「何?」
「ありがとうございます。やっぱりあなたは頼りになりますねー。わかりました、すぐに行ってきます」
「アンジェの格好ほめるの忘れないのよ」
「はい!」

嬉々として扉を出ていくルヴァの後ろ姿を見送って、私は四つ目の溜息をついた。
ふと手元のカードに目をやる。
一番上のカードが目についた。

「…世界、ね…」
私からみれば逆位置のそのカードの意味は「煮え切らない態度」。
しかし、ルヴァの座っていた場所からは正位置。

その意味は。

「ハッピーエンド、か」

一度にどっと疲れたような気がして、私は五つ目の溜息をついたのだった。(fin)













5000番を踏んで下さった、キリ番ゲッターまーや師匠のリクは、
「オリヴィエ様とルヴァ様の友情物語」でした。
ほんとにお待たせしてしまって申し訳ありません。
気付けばもう半年以上…きゃーーー(爆)

オリヴィエ様一人称、めちゃめちゃ書きやすかったです(笑)
なのに、こんなに時間がかかってしまったのは、ひとえに私の技量不足でございます。
三人称で書き初めて、書いては消し、書いては消しを果てしなく繰り返し、もう無理かとギブアップしかけたところで、オリヴィエ様に語っていただいたら、あっという間に仕上がりました^^;

リクにお応えできているのかは非常に微妙な感じなのですが、もらってやってください、お師匠さま。(BY 葉月)
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