導べの星 第1話


― SCENE0 ルヴァ


「にいさま、まって、にいさま!」
制服姿の大人に連れられて、船へのステップを上りかけていた少年が、幼い呼び声に振り返る。
「ああ、気付いてしまったんですか…」
「にいさま、いっちゃだめだよ!」

少年はかわいい弟の泣き言に苦笑する。

「そんなわがままを言わないでください。別れるのが辛くなるでしょう?…一日出発を伸ばしてもらったんですから、もう行かなくてはならないんです」
「だって、とうさまとかあさまが、にいさまはとおくにいっちゃうからもう会えないってって言うんだもん。にいさま、かえってくるんだよね?ぼくにそういったもんね?」

守護聖として聖地に召還されたこと。それは一族にとってとても誇らしいことであり、かつ、一族との断絶を意味する。
一度聖地に入ってしまえば、次に出てくるのはサクリアが尽き、守護聖としての役目を終えたとき。
次にここに戻ってくる頃には、星自体が存在しない可能性さえあるのだ。
知識を司る次期守護聖の少年はそのことを知っていたが、口には出さない。

「帰ってきますよ、必ず。だからもう泣かないで見送ってくださいね。これからはあなたが父さまと母さまを守るんですから、強くならなくては」
(いつ帰れるかは分かりませんが。)心の中でそう付け加えて、けれど表情には出さずに。
「わかった、ぼく、もうなかないよ。にいさまのかわりにつよくなるんだ」
「ルヴァ様、お時間です」
「はい。…元気で」
「にいさま、おしごとがんばってね。はやくかえってきてね」
「行って来ます」

聖地に向けて船が飛び立つ。兄を見送った幼子は泣きじゃくりながらいつまでも空を見上げていた。
「にいさま…」







帰りたいのかどうか。そんな簡単なことも既にわからなくなって久しい。
今更どこに還るのだろうか。故郷と呼べる星はとうに宇宙の塵に還ってしまった。


この寂しさを癒すことなどできないと思っていた。
守護聖が9人いるのは、同じ傷を舐めあうように、同類相憐れむように、群れ添って少しでも寂しさをごまかすためだと。

あの日までは信じていた。
……彼女に出合うまでは。



守護聖の孤独。
この寂しさを癒すのは誰…? (続く)



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作者より

とうとう始めてしまいました。
葉月稜子初の長編連載です。
これの元ネタは「今宵、一夜。」です。
あれを書いたあと、ネタの神様が(あれは長編の前振りに過ぎないんだよ〜)とおっしゃったので(笑)この話ができました。
アンジェ書いてて初めて、書いても書いても話が進まないという経験をしています。
長くなると思いますが、お付き合いいただければ幸いです。
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