通り雨 「あ、雨…」 思わず声にだしてしまったら、周りの人がくすっと笑ってこっちを見たので恥ずかしくなる。 傘、持ってないや。 いつもなら、こんなとき彼に電話して迎えに来てもらうんだけど、 (今日は遅くなるって言ってたっけ…) こんな日に限って。 ビニール傘買うにも、売っているお店に着く前にびしょびしょになっちゃいそうだな。 ふとロータリーを見下ろすと、タクシー乗り場にも長い列ができていて、後ろの方は屋根のないところまで列が続いている。 (どの道濡れちゃうってこと、か。仕方ない) 覚悟を決めて、一歩を踏み出し。 「えっ?」 冷たくない? 覚悟していた雨の冷たさを感じない。 困惑して思わず振り向くと、そこにはビニール傘をさしかけてくれている見覚えのある…というか、知りすぎたひとが立っていた。 「濡れるぞ、ほら、持ってけ」 ぶっきらぼうに傘を私に押し付けるその人は。 「天真君…」 「あいかわらずぼーっとしてんな。ずっと後ろにいるのに気付かないから、どきどきしちまったぜ」 「あ、あの、ごめんなさい…」 「ま、いいけどよ。お前らしいといえば、この上なくお前らしいし」 けなされてるのか、複雑な気分。 「いつからそこに?」 「お前がここに来た時から。同じ電車だったらしいな」 「あ、そうだったんだ、ごめん、気付かなくて…」 「いいさ。それより、なんでお前、傘もささずに走って行こうとしてたんだ?あいつは迎えに来ないのか?お前を雨の中走らせるってのはどういうことだ?」 あ、やば。天真君、目がマジだ。 「えと、今日、お仕事で遅くなるって。傘忘れちゃったし、だからタクシーで帰ろうかな、と思って」 「…よくあるのか、そういうこと」 「あの、そのっ、と、時々、ね。いつもはちゃんと迎えに来てくれるしっ」 「…ふーん」 「あの、天真君?」 「ま、当然だよな」 「天真くん?」 「いいか。あいつが迎えに来ないようなことがあれば、いつでも俺を呼べ」 そして声をすっとひそめて。 「お前の隣でお前を守る役目はあいつに譲ったが、俺はずっとお前を見てる。お前を守りたいと思ってる。だからいつでも遠慮なく呼んでくれ、な?」 「天真くん」 恥ずかしいなぁ、もうっ! そう伝えたら、大笑いされた。 「何、照れてるんだ、今更?「あっち」で散々言われてた台詞だろ?」 神子殿。 その部分だけやはり声を小さくして。 「そうだけどっ。ここは違うもん、現代日本でそんな恥ずかしい台詞どうどうという人いないよ」 「いるだろ、ここと、ほら、あそこに」 「あそこって…えっ?」 「ええっ?なんで?遅いって言ってたのに」 「大方誰かさんが傘忘れたのに気付いて、慌てて仕事切り上げてきたんだろ」 ま、それくらいじゃないとよ。 天真君、なんだかぼそぼそ言ってたけど、私はあんまり聞いてなかった。 目の前で車を止めて、こっちに向かって手をあげて合図しながら近づいてくる人を見ていたから。 「けっ、あいかわらず、おいしいとこ持ってくぜ」 「あ、あの、天真君、傘、どうもありがとう。すごく助かった」 「ああ。じゃ、気をつけてな」 「え?会っていかないの?久々でしょ」 「わざわざ会う必要もねーだろ?お・幸・せ・に!」 そんな台詞を残して、くるりときびすを返すと人ごみにまぎれていった。 私の手の中には白いビニール傘だけが残って。 それをちょっと眺めた後、視線を前に戻した。 大好きな人を迎えるために。(fin) -------------- 作者より ふふふふふ、書いてしまいましたvv あの日記ネタを遙かに起こすとこうなりました。 うしろからすっと傘をさしかけられるシチュエーション、なかなかに萌えでした。 (実体験でもどきどきしちゃいました(笑)) お相手はだれなんでしょうねー?敢えて秘密にしてみます。 一応私の中では意外な方がお相手に想定されています。 興味のある人はこっそり聞いてください(笑) でも、この話、甘いんだか甘くないんだか微妙ですね^^; |
ミィ様よりイメージイラストを頂きました。うれしいですーーVV(2003.3.23) |