大人になった日


「どうですか?変じゃないですか?」

花梨は幸鷹の前でくるりと一周して見る。

花梨の振袖姿。変わり結びの帯が華やかに彼女を彩っている。
そう、今日は花梨の成人式。

着物姿は否が応でも「京」を思い出してしまう。
残してきた養父母や部下。八葉の仲間達。
そして、「神子」だった彼女の姿…。
神々しかった彼女は、今や自分一人のものだが。
一瞬遠い目をした幸鷹の表情を見て、花梨が不思議そうな顔をする。

「幸鷹さん?どうかしました?…やっぱり似合わないかな」
「そんなことはありませんよ。とてもよくお似合いです。やはり、あなたには着物が良く似合う」
「そ、そうですか?」
「ええ」

軽く相槌をうって、にっこりと微笑う。

「こうしてあなたの成人を祝うことができて、とても嬉しく思います」

恋人のストレートな言葉に、一気に赤面する花梨。

「あの、幸鷹さん…私もです。幸鷹さんが一緒で良かった。それからね…」

ちょっと口ごもって、考えるようにしていた花梨が小さな声で呟く。

「この格好で…着物で、幸鷹さんのお祝いができて、嬉しい」
「私の祝い、ですか?」
「うん。幸鷹さん、15日誕生日、ですよね?平日だから、その日には幸鷹さん、お仕事でお祝いできないでしょ?ちょっと早いけど、今日、一緒にお祝い出来たらな、って」

「そうか、祝日ではないのですよね」
こんな些細なところにも、未だ抜けきれない記憶と慣習が残っていて、幸鷹は苦笑する。
「今日は特別だから。特別な日だから、特別な人…幸鷹さんと一緒に過ごしたかったの。これ、下手だけど。お誕生日おめでとうございます」

差し出されたのは手編みのマフラー。
不揃いな編目に、花梨の苦戦振りがうかがえて、幸鷹にはほほえましかった。

「ありがとう、花梨…では、私もわがままを言って良いでしょうか?」
「はい、私にできることなら」
「今日からあなたは「大人」ですね。この日を待っていました」
「幸鷹さん?」
「これを」

差し出されたのは、赤いビロード張りの小箱。
そう、女性なら誰もが憧れる…。

花梨は震える指で、ゆっくりと蓋を開く。
予想通りのものをそこに認めて、思わず幸鷹の顔を仰ぐ。

「あ、あのっ、これって!」
「結婚しましょう、花梨」
「ゆきたかさん…」
「もう、私は充分すぎるほど待ったとは思いませんか?」

小箱の中身…幸鷹の趣味を反映し、小ぶりだが質の良いダイヤのはまった、上品なデザインの銀の指輪。
幸鷹はそれを箱からゆっくりと右手でつまみ上げ、空いている左手で花梨の左手をとる。
銀の光の環が花梨の指におさまると、誰よりも着物姿が似合う青年は、婚約者の頬に優しい口付けを落として囁いた。

「幸せに、なりましょうね」




少女が大人になった日の出来事。







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作者より
久々の新作。
タイトルは取りようによって微妙にアダルトチックですが(笑)、めちゃめちゃ健全でした(^^)

私の書く幸鷹&花梨はなぜか現代EDなんですよね(^^ゞ
多分に設定に萌えているせいなんですが(笑)
この二人だったら、やっぱり一緒に帰してあげたいと思います。
でも、京は京ですごく好きなんだよなぁ。そこが微妙。
機会があったら京でのお話も書いてみたいです。

このお話の設定は読めばおわかりの通り、帰ってきて四年後。
ゆっきー、民間の研究所あたりで普通の会社員やってそう。(え?研究員は「普通の」会社員じゃない?そうとも言う)

幸鷹さんお誕生日記念と言うことで、フリー配布します。
こんなのでももらってやろうという奇特な方がいらっしゃいましたら、BBSに一言書いてテキストコピーしてお持ち帰りください。サイトアップ等もご自由に。
期間は1月31日までとします。→終了しました。(2003.2.1 追記)