邂逅 小さい頃からずっと一緒だった。 離れるなんて考えたこともなかった。 だから、あなたが側にいないと知った時。 もうあなたに一生逢えないかもしれないとわかった時。 ・・・初めてあなたに恋していることに気付いて泣いた。 急に泣き出した私に、隣で譲君があたふたしてたのがわかったけど、涙は止まらなかった。 「先輩、俺はずっと側にいます。先輩のこと、守りますから」 そう言ってくれた譲君の気持ちが嬉しくて、それなのに他の人のことを考えてるのが申し訳なくて。 それから更に大泣きしてしまった私を、譲君は困ったような顔をしながら優しく宥めてくれた。 京に着いてからというもの、なんだか胸騒ぎがしていた。 夢を見たから。 「まさおみ、くん?」 「おう。・・・・・・なんだよ、そんな化け物でも見るみたいな顔して」 「だって、もう、逢えないかと思ってた・・・」 「ちゃんと逢ってるじゃねーか。運命、ってやつかな?」 「よ、かった・・・」 夢での運命的な再会。 同い年だったはずの将臣君は、なぜか年上になっていたけれど、逢えたことがとにかく嬉しくて、私はただひたすら泣きじゃくった。 泣き疲れて少し落ち着いた私に、将臣君は「渡すはずのクリスマスプレゼントだった」と金色の懐中時計をくれた。 夢の中で、これは夢だとわかっていたから、起きた時にその時計を握り締めていたことに驚いたけれど。 だから、夢で将臣君と再会を約束した場所に行ってみた。 もしかして、本当に逢えるのかもしれない。 「将臣君!」 「お、望美!」 二度と逢えないかと思っていたのに、もう一度逢えた。 ただそれだけで幸せだった。 だからもう二度と離れないと誓ったのに。
運命の神様は、白龍のように優しくはないらしい。 『お前が・・・俺の・・・敵、なのか?』 たった3年半。 それだけの年月で、私たちは知らないうちにロミオとジュリエットのような悲劇の主人公にされて、いた。 陣幕の上には見事なまでの満月がかかっている。 陣の内は戦いのあとで慌しい。 戦の間はいつ何があるかわからない。 明日もある、休める時に休んでおくに越したことはない。 だけど。 『望美』 瞳を閉じるとあなたの声が聴こえる。 『望美』 これはきっと幻。 今夜は満月。 だからきっとまたあなたの夢を見る。 でも今、あなたの夢は見たくない。 きっと、あなたがどれだけ苦しんでいるかわかってしまうから。 私がどれだけ辛いか伝わってしまいそうだから。 「望美、考え事?」 「え?」 唐突に意識の内側からではない、本物の声が聞こえて驚いた。 妙な反応をした私に、朔は一瞬驚いたようだった。 「どうしたの、望美?そんなに変な顔をして?」 「朔・・・」 「お茶を入れたの。よかったらどうぞ」 「ありがとう、頂くね」 私は黙ってお茶を受け取った。 肌寒い風が吹く中、朔の入れてくれたお茶は心まで温めてくれるようだった。 「・・・眠りたく、ないの」 「なぜ?」 「見たくない夢を見るの」 それだけで朔は理解してくれたようだった。 「お願いがあるのよ、望美。女同士で話したいことがあるから、朝まで付き合ってほしいの」 朔が付き合ってくれたおかげで、明け方頃になって夢も見ずに眠れた。 朔は優しい。 朔だけじゃなくて、源氏のみんなも。 だから。 あの優しいまどろみから目覚めて、私は決意した。 私は白龍の神子。 源氏の、神子。 私は源氏のために平家と戦う。 これが、きっとあの人の望むことだから・・・。 (了) |