劇団四季『オペラ座の怪人』鑑賞記
5月13日 ソワレ 電通四季劇場[海] 

キャスト
ファントム:高井 治
クリスティーヌ・ダーエ:佐渡寧子
ラウル・シャニュイ子爵:佐野正幸
カルロッタ・ジュディチェルリ:種子島美樹
メグ・ジリー:松元美樹
マダム・ジリー:西島美子
ムッシュー・アンドレ:林 和男
ムッシュー・フィルマン:青木 朗
ウバルド・ピアンジ:半場俊一郎
ムッシュー・レイエ:深見正博
ムッシュー・ルフェーブル:岡本隆生
ジョセフ・ブケー:岡 智


四季のオペラ座は98年秋の赤坂以来だから、6年半ぶり?
正直、前回赤坂で見たときがひどすぎたのでしばらくミュージカルそのものからも遠ざかっていたのですが、昨年からの東宝熱と映画オペラ座に浮かれて久々に四季チケットを取ってみました。
劇場近いし、新ファントムの評判が異常に良かったので。

・・・ええと。
ある意味行ってよかったとは思います。
赤坂の悪夢は違う意味で拭い去られました。ええ。

オペラ座って喜劇だっけ?
なんというか、完璧なるパロディを見せ付けられているような気分でした。
完成度は6年前とは比べ物にならない、かなりのハイクオリティ。
なのに、感じる印象のこの違いはなんだろう?
とにかく、芝居が薄い。学芸会を見ているよう。
ちがうな、レミ・コンのようなコンサート形式のミュージカルやオペラのような感じに近いのか。
うまいんだけど、淡々と儀礼にのっとって台詞と歌をこなしている感じで、全く感情が感じられないメンバーが数人。
オペラ座といえば、泣かせる演技と歌が持ち味の演目だと思っていたのだけど、思わず笑い(失笑)が漏れるような出来ではどうかと思う。
もちろん、過去の記憶を美化している部分はあるのでしょう。
初演時と現在では、劇場の規模やアンサンブル、オーケストラどれをとっても比較にならないし、今の四季役者陣に、市村・山口・沢木・芥川各氏レベル(今井さん、青山さんは未見)の迫力は望めないかと。
逆に全体レベルは以前の比ではなくハイクオリティなので、今回のでも初めて見る人はかなり圧倒されるのではないかと思います。
だって高井さんを始め、佐渡さん、佐野さん、種子島さん、西島さん、林さん、青木さん、半場さん、深見さんと、とにかく美声の名優揃い。
特に主演の3人と支配人'Sの声は本当に素晴らしいです。
今までこんなに軽々とプリマドンナを歌い上げたキャストはいなかったのではないかと。

でもね。
こんなのオペラ座じゃないといいたい。
クリスティーヌがファントムを必要としない歌ってオペラ座か?
クリスティーヌもファントムもかけらもお互いに愛を感じないなんて、そんな演技が許されて良いのか?
どう見ても墓場のシーンのファントムとクリスティーヌのデュオは「こいつなんかに負けるか!」と張り合っているようにしか聴こえなかった。
声は素晴らしい、でもうつろで心に響かない。
そんな感じの歌に聴こえて、舞台は以前見た日生劇場や新橋演舞場のときより近いはずなのにすごく遠く感じられて、全く心に届かなかった。
(オーケストラの軽さ、インパクトの薄い指揮と演奏も多分に影響していそうだけど)
高井さんのソロでも、佐渡さんのソロでも、個人のリサイタルとしてなら完璧なのに。
昔コーラスやなんかやっていた時、「金取っている以上、上手く演じることは当然だが、それよりも客を満足させる舞台を作れ」と散々指導されたことが、今なら良く分かる。
多少音外しても、勢いがある方が観客は見ていて印象に残るんだ。
(某芝居はエ…上手いけど、音痴な死神閣下とかいるしな…今山口版のオペラ座CD聞きながらこれ書いていると本当にそう思う。)
例えが悪いけど、K社のイベントとは両極端だなぁと。
片ややる気はあるけれど運営が空回りのイベント、片や技術はあるけれどやる気がない舞台。
どっちも企業主体である以上良くない訳だけど、K社イベントは文句言いつつも、演技者に愛が感じられるから、見た後幸せになれるだけいいのかなと。

崩壊寸前の舞台をぎりぎりつなぎとめていたのが、佐野ラウル。
佐野さん、10年以上ラウルやってるんですね^^;
キャスト見てびっくりしたよ…まだラウルやってたのか!って。
東宝なんてその半分以下の期間で超古参扱いだ。今、帝劇でジャベやってるメンバーとか、四季に残ってたら確実にラウル役者のままだったんだろうな…
佐野子爵さすがの貫禄なのに若々しくて爽やか。
暴走寸前の佐渡クリスティーヌを全身で抱きとめて包み込んでいる感じがすごく良かったです。
とにかく視線がかわいい!
歌で全てを解決しようとする高井ファントムと佐渡クリスティーヌに比べて、しっかりと情感がこもった演技が素晴らしかった。

全体的にはひどすぎた一幕より二幕、特にラスト近くはよかったと思う。
二幕見てて思ったのは、ラウルとマダム、支配人ズのみ出てるところは完璧に『オペラ座』なんですが、カルロッタ&ピアンジが出てきたあたりで怪しくなって、クリスティーヌとファントムが出てくると劇として崩壊してコンサートになる、と。
なんだか、ファントムとクリスティーヌの後ろに火柱が燃え上がっていて、ラウルは必死に火消しをしているけど、クリスティーヌ一人なら消せるけどファントムまでいると相乗効果で無理、という感じだった。
『舞台荒らし』って「ガラスの仮面」や「赤の神紋」に出てくるけど、まさにそんな舞台を生で見てしまった感じ。
暴走するマヤ(佐渡クリスティーヌ)を亜弓さんか桜小路君(佐野ラウル)が演技で引き止めるってイメージ?
…いや、高い金払ってそんなものは見たくないんだけど。。

なんかとりとめなくなってきたので、以下ピンポイント感想。

【舞台装置等】
シャンデリア、'98赤坂のときより更にしょぼくなっていて衝撃的。
記憶を美化してるのかと、思わず古いパンフを引きずりだしてしまった。。
しゃらしゃら〜という綺麗なガラス音じゃなくてやすーーーいプラスティックのネックレス(縁日で売ってる子供用のみたいな)をぶつけたみたいなかちゃかちゃからからいう音がする時点でもうがっくり。
SEでもいいからシャンデリアらしい音が聞きたかった。。
あと、ブケーの死体人形。
おもちゃ落として脅かしてる訳じゃないんだよね?
せめてもうちょっと本物っぽいマネキンを使えないものか。
あれじゃ笑っちゃうよ。。。。
地下とボートは思っていたより全然よかった。
ピアノも舞台の広さに合わせたらあんなものだろう。
墓場は…あのしょぼい火の玉は、記憶から抹消したので。。 あーーーやっぱりオペラ座は帝劇か日生、芸劇あたりで見たいなぁ。。
新橋も狭くて嫌だったけど、海よりましな気がする。
四季自前ホールはちゃちくてせっかくのオペラ座のゴージャスさが感じられないよ。
なんか全体的に安っぽさが漂ってたんだけど、映画の見すぎなのか、記憶の美化なのかよくわからない。。
あ、でもイルムートとかドンファンのセットは断然舞台の方が好きだと実感。

【音楽】
やっぱり迫力が薄いですね。
生オケの人数減ってるから仕方ないか。。全盛期の半分だもんな。人数どころか音数も減ってるし。(低音減った分は電子音に振替か…ちっ!)
音響さんが下手くそで、肝心な所のマイクがぶちきれててオーバーチュアの最初が台無しで失笑。
オペラ座の音楽でオーバーチュアに感動できなくて、どこで感動するんだ!!
マスカレード?でも二幕最初、まだ客電消えきらないどころか、客席ざわつきまくった状態で見切り発車してたぞ??
迫力に欠けるからうまくて丁寧だけど印象に残らない、そんな演奏でした。
それでも評判よりはうまかったです。特に弦。

【衣装】
綺麗なんだけど…デザインも変わってないと思うんだけど…なんであんなに軽く見えるの??
オペラ座=衣装!というあの金のかかった重厚な衣装はどこに行ってしまったのだろうか。
それとも照明とかの理由かなぁ??
なんか風に翻る感じとかがすごく軽かったのが残念だ。。

【キャスト】
高井ファントム:
完全なるオペラ座の歌を、初演から十数年経って始めて聞かせて頂きました。
張りのある艶やかな低音、エロティックさすら感じる妖艶に響く高音、自由自在緩急自在に聴かせる歌、完璧でした。
いや、ほんと素晴らしい。
CDにしてくれないかな、と思います。
でも、惜しいかな、歌は上手すぎてしまうからか逆に印象に残りにくい。
そして演技が…すべてを歌で解決しようとしているようで台詞が全くないのが逆に違和感。
ここまで音に乗せる必要があるのか?というところまで完全に歌。
私の中では演技派ファントムがデフォルトなので、ちょっとそこは受け付けないかも。
ラストの「行け!」は良かったんですが。
演出によっては山口ファントムの次くらいに好きかもしれない。。


佐渡クリスティーヌ:
これほどまでに歌が上手いクリスティーヌがかつて四季にいたでしょうか?
あんなに軽々あの発声練習(Think of meとPhantom of the Operaのラスト)出した女優さん初めて見ました。本当に上手いです。
でも、上手すぎてしまってクリスティーヌという感じがしない。。。
なんというか、リサイタルなんですよ。
音楽の天使なんかいらないじゃん!という感じがしてしまう。
でもって、全然儚く夢見がちという印象がしないのでファントムと二人で歌うと「あんたなんかいらないのよっ!」って気の強いお嬢さんが喧嘩売ってるように聴こえる…
歌も見た目も演技もほぼ完璧なんですが、キャラ違いが致命的。。
高井さんとの相性も良くないんだろうなぁ。
佐野さんがファントムだったらよかったのかも。


佐野ラウル:
確か十年ほど前にも見たと思うのですが、感動的に上手くなってました。
いや、あたりまえかもしれないのだけど、今回の舞台では本当に心のオアシスでした。
佐野さんが出てくると舞台が締まるというか。
彼がいるところだけ芝居なんですよ。ファントムとクリスティーヌだけだとコンサートなんだけど。
演技力がすごくついていて、驚いた。
「ロッテ」のシーンがわざとらしくなく、「クリスティーヌ、エンジェル!」がカッコよく聞こえたのは久々です。
このシーンすごく好きなので嬉しかった。
(四季発声は誰がやっても比較的わざとらしく聴こえる癖があるから…)
もう良いお年だと思うのですが、充分若々しいし(というか某マリウス並に詐欺だ、あの見た目…)かわいらしくさわやか。
ひとつひとつの動作がもうラウルそのもの、舞台で完全に役として生きていたのは彼だけだと思います。
ラストのファントムとクリスティーヌのキスを見て辛そうな顔をするところとか、私の中で映画のパトリック・ウィルソンを超えました(笑)
歌も素晴らしい。
多分、役柄によって歌い方も変えているのでしょうが、佐渡さんとの組み合わせだと包み込むような暖かい歌い方をされていて泣けるほど感激しました。
是非もう一度、今度は違うクリスティーヌとのデュオで見たい。


種子島カルロッタ:
なんだかカルロッタにしては声が軽すぎるような。
今までの四季のカルロッタのイメージにしては非常にかわいらしいカルロッタですね。
もっとドスの利いた感じが四季デフォルトだと思っていた。
うーん、佐渡さんと種子島さん役が逆だったらもう少しイメージなのかも。。
高音は軽々出されて問題ないのだけど、低音が少し弱いのが気になった。
あと、もう少し嫌味たらしく歌ってよいのかと。あれだとクリスティーヌの方が普通に上手く聴こえる。。。


松元メグ:
ええと。声が…歌が……も、もう少し誰かいなかったんですか?
なんであれでメグなんだかわかりません。
歌がだめでもせめて声だけでもかわいい人がよかったのだけど。。
佐渡さんとの声の相性の悪さは高井さんの比ではありませんでした。。。
佐渡さんが上手すぎるだけに、下手さが際立ってかわいそう。。


西島マダム:
記憶が確かなら、この方初演で見たときからこの役ではないかと。
完璧すぎるマダム、この迫力ならカルロッタで見たかった。。
昔は歌より演技の人だと思っていたのですが、すごく声量つきましたね。驚きました。


林アンドレ:
アンドレは小男というイメージがあるのですが、いいです、林支配人!
長身眼鏡って新しいアンドレ像ですね。
かわいい!!


青木フィルマン:
この方も随分長いことこの役で見かけた記憶が。
素敵です、青木支配人!完璧です!
林さんと青木さんのデュオ聴いてると泣くほど感激できます。
文句のつけどころがありませんでした。


半場ピアンジ:
ピアンジって映画だとものすごくインパクト薄いんですが、舞台だとかなりおいしい役ですよね。
可愛らしさが出ていてよかったと思います。


深見レイエ:
うーん、真面目すぎ、かな。
この役はもう少し可愛らしさがある方が好きです。
深見さん、歌上手いはずなので、歌のない指揮者役は寂しい。。


岡本ルフェーブル:
インパクトありすぎの新支配人ズに比べ、旧支配人インパクトなし。
もうすこし「俺は逃げるぞ!」という小狡さと焦りが見えた演技が見たかった。
まだまだ修行中ですか?


岡ブケー:
下…(以下自粛)
難しいのはわかるけど、せめて音はまともにとって頂きたく。。


アンサンブル:
うまいんです。確かに。
でも最近レベルの高いアンサンブルを見すぎているからか、個性のなさが気持ち悪く見えて仕方なかった。
ドンファンのような不協和音が揃いすぎてるのもどうかと…
あと歌はよくてもダンスはどうかと思う人が数名いた気が。。。


…違うキャストで口直しさせてください、お願いします!!
(妄想キャストなら、2005東宝レミのバル・ジャベ・コゼ・エポのキャストをそのままファントム・ラウル・クリスティーヌ・メグで見たい。それ以下のキャストはこの四季キャストで良いから!)