音色を探して 優しい音。 穏やかな音。 乾いてひび割れた地面にそっと染み入るような、豊かな音。 先輩の音はそんな音がする。 「香穂ちゃん、どうかした?」 王崎先輩が演奏を止めて振り返る。 「なんでもないです」 「どうしたの?何かあった?…泣きそうな顔してるでしょ」 「そんなこと…ないです」 隠し切れなかった涙が頬を伝ったような気がした。 きっと気のせい。 「うーん困ったな。おれに話せないような事?おれはそんなに信用ない?」 「そんなことないです!」 思いっきり否定してしまって、恥ずかしくて俯く。 先輩は黙ってヴァイオリンをおろして、ベンチに腰掛けていた私の隣にそっと座る。 しばらく沈黙が続いて、その間先輩はじっと待っていてくれた。 「………先輩のように弾けたらな、って思ったんです」 「……誰かに何か言われた?」 「………。」 普通科出身の初心者が魔法のヴァイオリンを持っていきなり出場した第一セレクションで1位。 その後も快進撃を続け、残すは最後の第4セレクションのみ。 魔法のヴァイオリンは既に壊れ、今は普通のヴァイオリンでの実力勝負とはいえ、きっかけが「ずる」であるという自己嫌悪はセレクションの間中つきまとう。 そして最悪のタイミングで聞いてしまったのだ。 音楽科生徒の「あいつは裏があるに違いない」という中傷を。 「そう…。香穂ちゃんは真面目だから」 「そんなことないです」 「ほら。そういうとこが、ね。香穂ちゃんは香穂ちゃんだし、嘘ついてないなんていうのは音を聞けばすぐにわかるのにね」 「………。先輩の音は優しくていつも癒されて。先輩、私なんかを甘やかしちゃだめです」 『偽物』な自分が暴露されてしまうようで。 「『なんか』」 「え?」 「『私なんか』っていうのはよくないな。君は君らしくあればいい。それが君の音楽なんだから。それに……おれが甘やかすのは一人だけのつもりなんだけどな」 「先輩?」 「んーこれじゃ伝わらないか。じゃ、こういうのはどうかな?」 すくっと立ち上がってもう一度ヴァイオリンを構え、弾き出した曲は。 「この曲……」 私がこの前のセレクションで弾いた曲。 同じ曲なのに、どうしてこんなに違うんだろう。 優しい、どこまでも優しく包み込む『先輩の音』。 先輩の音はささくれだった私の心を徐々に宥めてくれた。 だから、私は先輩が一曲弾き終えるまでただじっとその音に包まれていた。 動きたくなかった。 「分かった、香穂ちゃん?少しは落ち着いたかな?」 弾き終えると先輩はにっこりと微笑んだ。 「香穂ちゃんと同じ曲を弾いても、おれは香穂ちゃんにはなれない。香穂ちゃんがおれになれないのと同じ様に。だから君は君らしくいて。それに」 言葉を切ると、手にしていたヴァイオリンをケースに戻す。 そして私に近づいたと思ったら頬に暖かいものが触れた。 「こういうのは君に似合わないな。泣いても構わないけど、香穂ちゃんは笑ってる方がかわいい」 拭われた涙で光る繊細な音楽家の指を掲げながら、ちょっとおどけてそんな風にいう。 さりげない優しさが嬉しくてしがみついて泣きながら、やっぱりこの人を好きになってよかった、と思った。 今日はだめでも明日はきっといい音が出せる。 ずっと、先輩が見守っていてくれるから。(fin) ------------------------ 第七弾王×日。 コルダ2発売決定記念ということにしておこう。 うわーなんですかこの砂吐きそうな人たち!(誰が書いたんだよ)(私です、すみません) 王崎先輩って、気障な台詞でも素という天然さんだと思うので恐ろしいです(笑) てゆうか、もしかするとどこかで木のつく人よりも天然ブラック発動してたらどうしよう(既に違うキャラ) 何年も王崎というキャラを理解できずにSS書けなかったのですが、今月のLaLa見て妄想もくもく。恐るべし呉先生(笑) しかしこの若干別人入りかけてる先輩だと、先に押し倒しそうな勢いなんですが大丈夫なんだろうか^^; とりあえず目標の男性キャラオールクリア。あとは2が出るまで趣味に任せて(笑) |