君の側までもう少し


「先輩は何でトランペット始めようと思ったんですか?」
日野ちゃんはにっこりといつもの笑顔でそんなことを聞いた。

なんでだっけ?
…いや、ほんとは覚えてるけど、日野ちゃんにはちょっと言いづらいような…ってなんで??
俺、別にそんな下心があったわけじゃっ!
って考えてたら、日野ちゃんに不審な顔をされた。

「先輩?どうかしました?」
「い、いや、なんでも。なんでもないからっ」
「んー?でも先輩、なんか顔赤いし、熱でもあるんじゃないですか?」

だからっ、そんな顔くっつけるなんてっ!

「ほんとっ、ほんとに大丈夫だから!」
「そうですか?ならいいですけど」

おでこは離してくれたけど、まだ心配そうな顔で日野ちゃんはいう。

「風邪引くと大変ですよ、コンクールもあるんですし」
「ほ、ほら俺丈夫だから。風邪なんて引かないし」
「そうだよなー、火原は風邪なんて引かないよなー。なんとかは風邪ひかないっていうし」

はっ?今なんか…

「か、金やんいつからそこにっ!」
「たった今。通りがかったら微笑ましい青少年たちの会話が聴こえてきてな」
「金澤先生こんにちは」
「おー。日野もこいつに付き合ってると疲れるだろ、程ほどにしておけ」

そんなことないですよーと笑ってる日野ちゃんはやっぱりかわいい。でもなんで金やんに…じゃなくて!
いやっその日野ちゃんがかわいくないってことじゃなくてその、あーーもう!

「火原、お前一人でなにやってんだ?」
「あ、聞いてください、先生。火原先輩なんかさっきからちょっと変で」
「ふーん」

金やんはいきなり俺の肩に手を回すと日野ちゃんから顔隠すみたいに逆に向けた。
で、小声でささやく。

「火原、日野狙いか?」
「ちょっ!な、なにいきなり!!」
「先生?」
「いや、なんでもない。男同士の話ってやつ。ちょっと待ってろ日野」
不思議そうな顔をしながらもちょっと離れて待っててくれる日野ちゃん。あーかわいい。
って。ちがーう!

「で?そうなのか?」

「だから金やん!なんでそうなるの!」
金やんにつられて俺も怒鳴り声が小声になる。ていうか、こんな話日野ちゃんに聞かせられないし。

「違うのか?俺はてっきりそうかと。じゃあ仕方ない、日野ー」
にやりと笑うと振り向いた日野ちゃんに声をかける。

「うわあああ!!!」

…絶対楽しんでるだろ、金やん。

「…いや、待たせてすまんな。もう少しで終るから」
「?構いませんけど…なんか火原先輩やっぱり変ですよね?」
「こいつが変なのはいつものことだろ。もうちょっとな」

もう一度逆を向いて小声話続行。

「さっさと告っちまえばいいのに。単細胞のお前らしくもない」
「そ、そんなことできないよ。コンクールだってあるんだし」
「ふーん、そりゃ結構なことだ。まあ頑張れ青少年。色々とな」

ぽんぽんと肩を叩いて俺を解放してくれた金やん。
俺、慰められたの??

「日野、悪かったな。待たせちまった」
「いいえ。…先輩、本当に大丈夫ですか?なんかぐったりしてますけど」
「…大丈夫、だから」
なんか精神的にすごく疲れたなんて、日野ちゃんには言えない。

「ふふん。じゃ、お疲れさん。練習頑張れよ」
「はい。先生、さようなら」
「おー」

俺はもう挨拶する気力もなくて、金やんを無視して歩き出した。
ちょっとびっくりした感じで日野ちゃんが追いかけてくる。

「火原先輩」
「あ、ごめんね日野ちゃん。金やんひどいよね、いきなり人をからかって」
困ったようににこっと微笑む日野ちゃん。
「あごめん、悪いのは金やんで、君じゃなくてっいやどっちかっていうと俺?」
「先輩、すみません。なんかちょっとさっき変なこと言って。聞いちゃいけないことだったのかなって」
「いや、そんなことないよ」
「でも」
「そんなことないけど。…でも、また今度でいいかな?今日は遅くなっちゃったし」

そのときまでに君に好きっていえる、心の準備をしなきゃいけないから。

「はい」

微笑む君はやっぱり眩しくて。

そう。
コンクールが終ったら君に言おう。
俺がトランペットを始めたちょっと不純な動機と、トランペットを続けていてよかったと思う幸せな理由を。(fin)






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第六弾火原。
なぜか掛け算にならなかった。。火原ファンの皆様申し訳ありません。
両想い設定で書き始めたので最初「香穂ちゃん」呼びだったのがいつのまにか「日野ちゃん」に戻っていた時点でアウトです(苦笑)
火原、そんなに真面目に攻略したわけじゃないのでネタ拝借は漫画短編から。
そして微妙に別人ぽいのは勘弁してください。(本人が一番ショックだった(笑))
しかし元金管屋のくせに、一番楽器ネタが入らないのはなぜだろう?
ピアノの次にホルン真面目にやってたはずなんだがなぁ。バイオリンよりも。
今度はオケ部ネタとかにすればいいのか?
でもTPが一番かっこいいのはオケではなくブラスだと思うんですが。
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