君の為に


「お前、ピアノ弾けないのか?」

覚えたてのハンガリー舞曲第2番。
土浦くんの前で披露したところで言われた。

「え?やっ、ひ、弾けないけど」

なぜだかうろたえてしまう。
いまどき、私くらいの女の子がピアノ弾けるのは普通だし。
だから、土浦くんがそう聞くのは不自然じゃないんだけど、私はリリにコンクール参加させられるまで、楽器なんて音楽の授業くらいでしか触ったことなかったから。

そんな様子がわかっていて無視してくれたのか、わかっていないのかわからないけれど、特に気にした様子もなく、土浦くんは腕組みをしながら言った。

「そうか・・・残念だな。この曲、元々はピアノ連弾用だって知ってるか?お前と連弾できたら楽しいと思ったんだけどな」


・・・土浦くんは時々無茶なことを言うと思う。
そりゃ、ヴァイオリンは少しは・・・ううん、以前に比べたら格段にうまくなっているとは思うけど。
だからって。

「無理だよ〜。ヴァイオリンで弾くのだって大変なんだよ?」
「そういうもんか?」
「そうなの!」

これ以上ごねられて、無理なこと言われても困るからちょっと急いで否定したら、土浦くんはなんだか困ったような、寂しそうな顔をした。

「そうか・・・残念だな」

そりゃあ。
小学生で『ラ・カンパネッラ』をコンクールで弾いたっていう、土浦くんにはわからないかもしれないけど。

「だからね、」

わかんないのかなぁ?

「『土浦くんの為に』練習したんだよ、この曲。わかってる?」
「えっ?」

土浦くんは本気でびっくりしてたと思う。
気付くの遅いよ。
ねぇ、真っ赤になってるよ?

「あ、ありがとう」
「ね、一緒に『合奏』してくれるよね?」

『連弾』じゃないけれど。

「そう、だな。『合奏』しよう」


ピアノの蓋を無造作にあけて、椅子に座る土浦くん。

瞬間顔を見合わせて呼吸を合わせ、音を紡ぎだす私たち。

弦の上に降ろされる弓。
鍵盤に降ろされる指。

楽器は違っても、響きあう音は同じ。(fin)









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コルダED記念第三弾はつっちーのご登場。
ゲームをプレイされた方はお分かりの通り、第四セレクションでつっちーに言われる台詞が元になっています。
作中の香穂ちゃんの台詞のほとんどは、私が本当に思ったリアル感想(笑)
連弾のハンガリー舞曲第2番はともかく、ラ・カンパネラ(へたれピアノ弾きの私にはこちらの表記の方がしっくりきます)を小学生で弾きこなすなんて、つっちー人間技とは思えません(汗)
・・・それ以前にどういう指使いならあの音が出せるのか、一度スローモーションビデオ(コマ送りかも^^;)で見てみたいです・・・。
あ、もちろんピアノの話ね。



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