本心



(好き)

お前は何か勘違いしているんだろう?

(好きだよ)

そんな音で誘ったからといって、俺が正面切ってそんな台詞を言うとでも思っているのか?

(柚木先輩?)

心臓に直接語りかける音を奏でたって、俺はそうそう負けてやるつもりはないんだ。

たとえお前の音に溺れていて。
欲しいものはそこにあるのに、手に入らないようなもどかしさがあったとしても。


「先輩?」

手を伸ばせばきっと届くのに。
何故、お前の音は俺の心臓をえぐったまま、すり抜けて行くんだ?

俺を通り越えて。

天の、高みまで向かう音。



「もうっ、柚木さんってば!どうしちゃったんですか?なんか変ですよ?先輩らしくない」

「・・・あぁ、香穂」

不意に途切れる音。


「『あぁ』じゃないです!先輩が弾けっていうから、弾いてたのに。ちゃんと聴いてくれないならやめちゃいますよ?」
「悪かった」

反射的に謝ると、ぎょっとした顔をされた。

「何だ、その顔は」
「びっくりした」
「だから何だって言うんだ?」
「だって・・・二人きりの時に、先輩が私に謝るなんて思わなかったから」


人のことを何だと思っているんだ、こいつは?

「悲しいな、君にそんな風に思われているなんて」
「・・・何企んでるんですか?ひっかかりませんから」

どうやらごまかされてはくれなかったか。まぁ、期待もしていないが。

「いや、・・・悪かった。続けてくれないか」

結局、お前には敵わないんだから。
無理をすることもないんだ。

「先輩、どうしちゃったんですか?そんなに素直だなんて、今日絶対変です!練習室来るなリいきなり好きな曲弾けとか言うし」
「お前、そんなにいじめて欲しいのか?」
「・・・それはいやです」
「なら、弾けよ。聴いてやる」


ため息をついて楽器を構えなおすお前から、再び流れ出す、天を目指す音楽。
この曲が終わる頃には、口に出せるかもしれない。


(お前には負けたよ・・・君が、好きだ)(fin)








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コルダ第二弾は柚木様。
うーん、よくわからないものに仕上がってしまいました(苦笑)
思考がひねくれすぎてて一見まっすぐに見える柚木様。
本心はとっても素直な方だと思っています。