誰のお願い?


「あの、エルンストさん…」

今日は日の曜日。
茶色の髪の女王候補が、休みの日にも研究院にくるのはそれほど珍しいことではない。
但し少々内気な彼女は、いつももう一人の女王候補兼親友の勝気な少女に引きずられてくるのだが(勝手知ったる元同僚のところに乗り込ん…遊びにくるのである)、今日は珍しく一人である。

「おや、こんにちは、アンジェリーク。今日はレイチェルと一緒ではないのですか?」
「は、はい…」
「どうかされましたか?おや、その手にもっているのは?」
「あ、あのぉ、エルンストさん…ちょっと質問してもいいですか?」
「はい。私に答えられることでしたらお答え致しますよ」

エルンストは、アンジェリークが持っている平たい包みが気になっていたが、努めて冷静に答える。

「エルンストさん、カラオケされるって本当ですか?」

何を聞くのだ、いきなり!?

というのが正直な感想であったが、答えるといってしまった手前、仕方ない。
こほん、と小さく咳払いをして答えるエルンスト。

「…どこでそのようなことをお聞きになられたのかわかりませんが…。はい、そういうこともありますね。研究院内の付き合いもありますので」

エルンストはこの答えにアンジェリークが驚くのではないかと思っていたが、どうやらアンジェリークの方はこの答えを確信していたらしい。
自分に言い聞かせるようにこくり、とうなずくと、きっとエルンストを見つめる。

「あの、そうしたらこれ、今度歌ってもらえませんか?」

言葉と同時に差し出したのは先ほどから手にもっていた包み。
「これは?」
話の流れからするとどうやら何かの曲の入ったディスクのようだが、袋に入っているため当然タイトルはわからない。(ディスクにタイトルが書いてあるという保証もないのだが)

「開けてもよろしいのですか?」
「ええと、その前に、歌ってくださるって約束してくださいませんか?」
「それは弱りましたね。私は付き合いで歌っているだけで、決して得意な訳ではないのですよ?」
「知ってます…でも、エルンストさんの歌聞きたいんです!」

おとなしい彼女のいつになく情熱的なお願いに、思わずくらっと来てしまう研究院主任である。もともとアンジェリークにはかなり好意を抱いているのだ、こんなに瞳をうるうるさせてお願いされては聞かないわけにはいかない。

「わかりました、努力いたしましょう…開けますよ?」
「ほんとうですよ、エルンストさん?」
「善処いたします」

かさかさと包みをはがし、近くにあったプレイヤーに取り出したディスクをセットする。流れてきたのは、最近主星で流行っている「女性」歌手の曲だった。
それも流行に疎いエルンストでもさすがに知っているほど有名な曲。
これを男性がカラオケで歌うのは、かなり勇気がいることだろうと想像するに難くない。

「こ、これは(汗)」
「エルンストさん、歌ってくれるっておっしゃいましたよね?」
「そ、そうはいわれましても、これは女性の曲ではありませんか!」
「歌ってくださらないんですか?」

アンジェリークは半泣きである。

「ア、アンジェリーク」
「フーン、女の子泣かしちゃうなんてやるじゃない、エルンスト?」
「オリヴィエ様!なぜここに?」

間の悪いときには間の悪いことが重なるものである。
開け放してあった扉に寄りかかって楽しそうに状況を観察していたのは、夢の守護聖オリヴィエ。味方にすればこの上なく心強く、敵にすると背筋が凍るという物騒な噂が流れているとかいないとか。

「なんでもいいじゃない。そうだよねー、エルンストの歌聞きたいよね、アンジェちゃん?」
「ええ…でも、エルンストさん困らせてしまったみたいで…やっぱり、あの、ごめんなさい」
「アンジェリーク!」

ぺこりとお辞儀をして扉に向かって駆け出すアンジェリーク。
エルンストはおもわず名前を呼んだが、ひき止められず。
戸口でアンジェリークの片手をすっとつかみ、ひき止めたのはオリヴィエだった。

「ほら、アンジェ、せっかくの可愛い顔が台無しだよ。涙はお拭き。…さてエルンスト。この子が泣いてまでお願いしていること、断るなんてことはないよね?」

いくらアンジェリークが泣こうともできることと出来ないことがある!と内心エルンストは思ったが、オリヴィエを前にしてそれを口に出す勇気はさすがになかった。

「…はい……」

「よかったね、アンジェ。あんたのお願い聞いてもらえるようだよ」
「いいんですか、エルンストさん?ありがとうございます!」
「…ほかでもない、あなたの頼みですから」

心の中で滝のような涙を流しながら、エルンストは答えた…。










半月後の研究院のプロジェクト完成打ち上げで、エルンストのカラオケを聞いて一番喜んでいたのは、招かれていたアンジェリークではなく、その隣に座ったレイチェルだったという…。




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あとがきのような言い訳。

もともとエルコレ書きたい気分だったんです。
(ずっとルヴァ様書き続けてきたので疲れた)

で、そんなときに、某所でなりきりチャットをしてしまいました。
エルンストさんがもし「あゆ」を歌うとしたら?
それはアンジェがお願いした場合しかないでしょ!
アンジェはなんで「あゆ」をエルンストさんに歌わせたかったんだろう?
きっとレイチェルに面白がってけしかけられたんだよ。
(↑タイトルはこういうわけです)

こうしてできたのがこの作品です(をい)
ヴィエ様がなぜここにいたのかはち○に聞いてください。私は知りません(笑)

すみません、アホな作品で(^^ゞ
これでも主任さんWファースト(爆)
(※そして今、これが主任さん初書きということに気付きました!え?私エルンストさん書いてなかったの?←自分が一番びっくりした)


というわけで隠しました。。。初書きなのに隠されるエルンストさんって一体。。。
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