スノーボール


「うっわーー!ねねっ、クラヴィス様、これ見てください!」
「どうした?」

クリスマスイルミネーション輝く街。
どこもかしこもきらきらと今年最後の光とばかりに、派手な飾り付けがされている。
そんな中、アンジェリークが足を止めたのは、たくさんのクリスマスオーナメントが飾られているショーウインドウだった。

窓ガラスに鼻を擦り付けんばかりに、熱心に覗き込んでいる姿はまるで子供のよう。
知らない者がみたら、誰が彼女を「選ばれし者」と思うだろうか、などと、後ろに立つクラヴィスは考える。

「ほらほら、きれーい。なんだか本当に雪が降ってるみたい。とっても幻想的だと思いませんか」
「悪くはないな」
「もう、クラヴィス様ってば。こんなに綺麗なのに!」
「お前が気に入ったのならそれでよかろう?・・・しばしここで待て」

そう言うと、クラヴィスはショーウインドウにアンジェリークを残して店に入って行く。
「え、クラヴィス様?!」

わけがわからないものの、とりあえず「待っていろ」と言われてしまったので、おとなしく様子を見ることにしたアンジェリークである。





「主、あの店頭に飾ってあるものを」

初老の店主は唐突に店に入ってきた長身の男性に驚きながらも、横目でショーウインドウのディスプレイを確認する。

「あのスノーボールですね?」
「スノーボール?」
「あそこのお連れのお嬢さんが見ていらしたものですよ。贈り物ですかね?」
「・・・そうだな」
「わかりました、少々お待ちください」

しばらくして可愛らしくクリスマス風のラッピングを施された包みがクラヴィスに手渡された。

「ありがとうございました。又お越しください」
「ああ」

包みを受け取ると、もうそのまま振り返りもせず、店を出て行くクラヴィス。

店の出口では、アンジェリークが待ち構えていた。

「クラヴィス様、よかった。もう、勝手に行っちゃってひどいです!」
「ああ、待たせて悪かった。だが、これが欲しかったのだろう?」
「え?」

ぽんと手渡されたその包みは、およそ普段のクラヴィスからは想像もつかない可愛らしいもので。

「クラヴィス様・・・?」
「開けてみるとよい」

中から出てきたのは、さっきまで眺めていたスノーボール。


「・・・これ・・・」
「私にはなぜこのようなものを喜ぶのか分からぬが。お前が喜ぶ顔を見るのは悪くない」
「クラヴィス様・・・ありがとうございます!」

嬉しげに両手で持って、くるくるとひっくり返して楽しげなアンジェリーク。
きらきら瞳を輝かせながらひとしきり遊ぶと、落ち着いたのか、にっこりと微笑んでクラヴィスに話し掛ける。

「クラヴィス様?なんで私がこれ見てたのか分かります?」
「いや・・・ただ気に入ったのではないのか?」
「そうですけど・・・そうじゃなくて。あのね、これ、ちょっとクラヴィス様の水晶球に似てるかなぁって」
「私の?」
「はい。クラヴィス様が水晶球でいつも見ている風景ってこんな感じかなぁ、なんて。ふふっ、ちょっぴりでもクラヴィス様に近づけるといいなぁと思ったんです」
「そうか。しかし、最近、水晶球に私の水晶に映るのはお前の姿だけなのだがな」
「え?」

驚いて見上げた顔の位置はアンジェリークには高すぎて、細かな表情までは読み取れないのだが。

「・・・行くか」

無表情に近い言葉から、なんとなく暖かいものを感じ取ったアンジェリークは、そのまま小走りで隣に駆け寄るとクラヴィスの右手にしがみつく。

「はいっ!」




再び歩き始めた二人の上からは、ガラス球の中に降るのと同じく雪が舞い始める。(fin)








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この作品は水晶月の華月様に捧げました。
(毎年毎年芸がなくクラ様で、すみません^^; 生粋関東人の私にはチャー様は無理。)
このイラストを見て、どうしてもアンジェが書きたくなって、浮かんだのがクラ様でした。
でもこのおもちゃ(?)がスノーボールという名前だというのは、これを書くまで知りませんでした。
己の勉強不足を思い知る今日この頃。
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