一輪の… 




(え…?)
聖殿の庭園を散策していた女王補佐官ディアが立ち止まる。
(いえ、違うわ。あれは…)

「こんにちは、マルセル、せいがでますね」
「ディア様!こんにちは!」
花壇の中で、土まみれになって花の種と球根を植えていた緑の守護聖マルセルが顔を覗かせた。
「ディア様、僕、今、種を植えてたんです。なんの種か分からないけど、植えてあげないとかわいそうでしょ?もしかしたら、すっごくきれいな花が咲くかもしれませんよね?楽しみだなぁ、ふふっ。きれいに咲いたらディア様にも差し上げますね」
「ありがとう、マルセル。そういうところはあの方にそっくりね。やはり同じ緑の守護聖だからかしら?」
「あの方って…カティスさまですか?」
「ええ。あの方もとても土いじりがお好きでね。よくそうやって育てたお花なんかを持ってきてくださったわ」









***
「おや、女王候補のお嬢さんじゃないか。どうかしたか?」
「カティス様」
「元気なさそうだな」

そう、あのときの私は、アンジェリークと自分とのあまりの実力差に落ち込んでいた。
アンジェリークは天才。いくら私が女王候補として育てられたからと言っても、努力だけで追いつくわけが無いと。

「ほら、どうだ、お嬢さん。きれいだろう?こういう小さな植物の力って言うのはすごいと思わないか?こいつらの生命力をみていると、自分がくよくよ悩んでいることが馬鹿馬鹿しく思えてくるんだ。小さなお嬢さんもこの花をみて元気を出すんだな」
「この花は…?」
「こいつは、聖地にしか咲かない特殊な花でな。ルヴァなんかは面白がってルーツなんかを研究しているらしいが、俺にとってはそんなことはどうでもいい。大事なのはいまこいつがここに咲いてる、ってことだけだな」
「今、ここに?」
「そうだ。今ここで俺とお嬢さんの心を和ませているということ。それが大事なのさ」
なんせ、ルーツなんて分かっても元気は出ないからな、と悪びれずに笑ったあの人…。
屈託の無い笑い声に、どれだけ励まされたことか。

……











***
「・・・さま、ディア様?!どうしたんですか?いきなり黙っちゃって?」
「い、いえ、なんでもありませんわ、すみませんね、マルセル」
マルセルが心配そうにディアの顔をのぞきこむ。
「ディア様、お顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか?熱でもあるのかなぁ?」
「ほんとうになんでもないのですよ、大丈夫」
「ならいいんですけど」
「では、わたくしもう参りますね。邪魔をしてしまってごめんなさい、マルセル」
「いいえ、ディア様とお話できて楽しかったです。綺麗に咲いたら見てくださいね」
「ありがとう。そうさせて頂きますね」
「無理しないで下さいね、ディア様」

大丈夫、心配いらないと言ってマルセルとわかれ、自室に向かう間。
ディアの脳裏にはかの人の言葉が響いていた。


…心配いらないよ、お嬢さん。君は君の速度で歩いて行けばいいんだ。
いつかきっと、皆が君を認める日が来るよ… 




私はあなたに認めて欲しかったんですよ、カティス様。
何も言わずにこの地を去られてしまったあなた。
あなたはご存知でしたか?(fin)




***********
作者より

この作品は某カティス様ファンに捧げます。いらなくてももらってください。愛だけはありますから。
一昨年の終りころでしたか、某所でリクされて「カティスさま書きますね♪」と言ってしまったために、自分のうかつさをのろいながら書きあげました。
しかし一年以上もかかってこれだけですか!何やってるんだか。
もうご本人もすっかり忘れていらっしゃることと思いますが^^;

自分の文才のなさに泣けて来ましたが、カティス×ディア(+マルセル)ではこれが限界。。。

文才なくてごめんなさい。
いつか再チャレンジしたいと思ってます(汗)
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