HAPPY BIRTHDAY


「ふわぁ〜」
執務室の大きな机に山積みになった書類。
その隙間から大きく伸びをするルヴァ。

「ああ、今日はいい天気ですねぇ。そろそろ一段落しましたし、アンジェリークを誘ってお散歩にでも行きましょうかね」
窓の外をみやってルヴァがつぶやく。
こんな日は恋人と一緒に公園をデートするにふさわしい。
そう判断したルヴァはゆっくりと立ちあがり、扉のほうに向かって歩き出した。

「おい、動き出したぜ!」
その様子を監視カメラでうかがっていた者達がいた。
こんなものを作れるのは聖殿内広しと言えども、ただひとり。言わずと知れたゼフェルである。当然、ここは鋼の守護聖の執務室。マルセル・ランディも同席している。

「まずいぞ、あいつ外に出る気だ。いつも外出なんてしねーくせに、何でそんな気まぐれ起こしたんだか・・・」
「そんなこといったってしかたないだろ、ゼフェル。とにかくルヴァ様をとめなきゃ」
「そうだね、ランディ。それが先決だよ、ゼフェル」
「仕方ねーな。まあ、念のため監視カメラ仕込んどいてよかったってことか」
「マルセル、俺がこの本を持って質問に行くよ。ルヴァ様なら、きっと熱心に教え始めて出かけるの忘れちゃうはずだ」
「うん。そうだね。じゃあ、頑張ってねランディ」
「おう、いってこいよ」
「任せてくれよ。じゃっ!」
ランディはすばやく戸口に向かう。

コンコン。
ノックをしてルヴァの執務室の扉を開けるランディ。
「ルヴァ様」
「おや、ランディ。どうかしましたか?いいお天気なので、これからお散歩にでも行こうかと思っていたんですよ。あなたもご一緒にどうですか?」
「いえ、あのう…お出かけしようとしているところ済みませんが、ちょっと教えていただきたいことがあるんです。ここなんですが」
「おや、あなたがこんなお天気の日にわざわざ質問にくるなんて珍しいですね?」
どきっ!
一瞬ひやっとするランディ(+カメラ越しの二人)。

「えっ!い、いやだなあ、ルヴァ様。俺だって真面目に仕事してるんですよ」
「ああ、これは失礼しました。どうぞ気を悪くしないでくださいね。見せてください、どこでしょう?…ああ、これですね。確かにこれは分かりにくいんですよ」
くるりと方向転換をして、書架に向かうルヴァ。
「ええっと、分かりやすい図が入った資料がどこかにあったはずです。あれはどこにしまったんですっけねぇ…ああ、ランディ、よければ一緒にに探してもらえますかね。確か緑色の背表紙の本です」
「はい、わかりました!」

「…ふぅ、あっぶねえな、アイツ。ルヴァじゃなかったらバレてるとこだぜ」
「そんな言い方ないでしょ、と言いたいところだけど、今回はゼフェルに賛成。ルヴァ様でよかったよ。これがオリヴィエ様とかだったら…」
「…考えたくねーな」
「ねえゼフェル。ところでなんで僕達、ルヴァ様を外に出さないように監視してるの?まだ理由聞いてなかったよね?」
「…あいつらに頼まれた」
「あいつらって…女王候補のアンジェリークとロザリア?」
「そーだよ!!あいつら、俺んとこきて泣き落とししやがるんだ!しかも、理由はいえねーとか言ってるしよ」
「ゼフェル、彼女たちには甘いよね」
ぐさっ!
「なんだと!おまえ、人のこといえるのかよ!」
図星を指されておもわず立ち上がるゼフェル。
「あーあー、ごめんなさい、僕が悪かったよ。だから怒んないでってば」
「ま、まあ分かってるならいいけどよ」
「それにしても、理由もわかんないのに、よくそんな依頼受けたよね?」
「おまえ、まだ喧嘩売ってんのか?」
「そうじゃなくて!だから、アンジェたちが何してるのかとか、気にならないの?」
「そんなこといったってよ!『それは秘密なんです』ってハートマークつきで言われてみろ!しかも二人がかりだぜ?俺じゃなくたって聞けるわけねーだろ!!」
「…オスカー様か、オリヴィエ様なら」
「じゃあ、おまえ、奴ら見習って聞いてこいよ!」
マルセルがゼフェルに外に放り出されようとした、その時。

バタン!扉が目いっぱい開かれる。
「ゼフェル様!遅くなりました。マルセル様も!」
両手いっぱいにピンクのバラの花束を抱えているのは、金の髪の女王候補アンジェリーク。(一体どうやって扉を開けたのだろうかと、守護聖二人は一瞬悩んだが、深く考えてはいけないような気がしてやめた)
「ランディ様はどうされたのですか?お姿が見当たらないようですが」
こちらは上品に深紅のバラの花束を片手に持って問い掛けるもう一人の女王候補ロザリア。
「あいつは、ルヴァの部屋だ。ルヴァの奴いつも本読んだらてこでも動かねーくせに、今日に限って外に行こうとするからよ、止めに行かせた」
「まあ、そうでしたの。やはりゼフェル様にお願いして正解でしたわ。ね、アンジェリーク」
「そうね、ロザリア。じゃあ、行きましょうか」
「お、おいお前ら!ちっとは状況を説明しようって気はねーのかよ!?」
「ゼフェル様、お静かに。ルヴァ様のお部屋に行けば分かりますわ」
「そうです、ゼフェル様。お楽しみは最後まで取っておく方がいいんですよ」
「ふふっゼフェル、勝ち目はないみたいだよ。あきらめてお姫様たちに従った方がいいみたい」
「わかったよ!しゃーねーな!!」
「では、参りましょうか」

ルヴァの部屋にて。こちらは資料が見つかったようである。
「ですからね、この部分がこちらにこのように作用して、最終的にこの形態になる訳です。そして…」
目的の本が見つかったルヴァは、嬉々としてランディに講義を始めている。最初こそこれも仕事だと思って必死に聞いていたランディであるが、そろそろ後悔し始めていた。
(ゼフェル〜〜はやくなんとかしてくれよ〜〜)

「ルヴァ様」
「失礼いたしますわ、ルヴァ様」

「おや、アンジェリークにロザリア?それにゼフェルにマルセルも?皆さんお揃いでどうかしましたか〜」
講義から開放され、どっと力が抜けるランディ。ソファに力なく埋もれるとそのまま眠りだしてしまう。
アンジェリークとロザリアはすたすたとルヴァの近くまで歩いてきた。

ばさっ!
「ルヴァ様。お誕生日おめでとうございます!」
ピンクの花束に埋もれるルヴァ。
「ルヴァ様のお誕生日が今日だって、占いの館のサラさんに教えてもらったんです。それで、お花買いに行ってきました。おめでとうございます」
つづいて深紅のバラの花束が渡される。
「この深紅のバラは主星のカタルヘナ家のバラ園で丹精こめて育てられたものを送ってもらったのですわ。ルヴァ様、おめでとうございます」

「ルヴァ、今日、誕生日だったのか!?」
「ルヴァ様、僕達知りませんでした。おめでとうございます。ごめんなさい、お祝い用意してなくて」
「いいんですよ、マルセル。ああ、皆さん…本人も忘れているような誕生日を祝ってもらって…こんなに嬉しい誕生日はひさびさです。本当にありがとうございます」
「僕、あとで、温室からなにかみつくろってきますね」
「俺も…そうだな、スタンド壊れてただろ、新しいの作ってやるぜ」
「ゼフェル、マルセル、本当に気にしなくていいんです。気持ちだけで充分ですよ」

「ルヴァ様、アンジェリークからのプレゼントはこれだけじゃないんです」
「ロザリア?」
「皆さん、申し訳ありませんが、目を瞑ってください」
いきなりの申し出にちょっと戸惑うが、素直に従う守護聖達。

(いいこと、アンジェリーク。打ち合わせどおりにちゃんとやるのよ?)
(ロザリア〜〜でもぉ〜)
(なに言ってるの、恋人同士なんでしょ?しっかりなさい!私もちゃんと目を瞑ってるわ)
(ううっ)
ロザリアにけしかけられて、アンジェリークはルヴァのすぐ側に歩み寄る。
そっとつまさき立って。

頬にKISS。

「きゃっ!」
「ええっ!」

二人の声が重なる。
声の主は真っ赤な顔をしたアンジェリークとルヴァ。

「けっ、なあんだ、そういうことかよ!やってられっか!行くぜマルセル、ロザリア。おい、起きろよランディ野郎!」
「ぜ、ゼフェル、あ、あの、今のって…」
「いいから行くぜ!おい、ランディ!」
「ん〜〜なんだよ、もう少し寝かせろよ、ゼフェル〜」
「いくぞ、この馬鹿!」
「参りましょう、ランディ様」
不機嫌なゼフェルとにこやかなロザリアに両腕を抱えられて、退室させられるランディ。
「待ってよ。みんな」
その後ろを追いかけるのは、一人納得行かない顔をしたマルセル。
そして部屋に残されたのは、一組のカップル。

「あ、あのぅ…ロザリアがっ!た、たまには恋人らしいことをしてあげたらって…その…ごめんなさい!」
「なぜ謝るんですか?私はもちろん、この花束も嬉しかったですけど、あなたからの贈り物が一番嬉しかったですよ。今度は…私から何か贈ってもよいでしょうか?」
「ルヴァ様…」


数日後、アンジェリークの部屋に届けものがあった。
「ルヴァ様から?何かしら?」

届いたのは小さな宝石箱。中に収められていたのはシンプルなエンゲージリングと小さなメッセージカード。
『外の世界では、大切な人に指輪を贈るそうですね。私の指輪を受け取ってもらえますか?』

アンジェリークは、そっと薬指にそのリングをはめ、一度大切そうに胸に押し当てると、部屋を駆け出していった。行き先はもちろん…。(fin)



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