Flower Crown


深夜、明かりの漏れる部屋。
この部屋にこの時間まで明かりがついているのは、それほど珍しいことではないのだが、それにしても異様だった。
この部屋の主が不満を漏らしていると言うのは。


「うーん、どうしてこの書類が明日の朝までなんでしょうかねぇ?
…いえ、これもお役目なんですから、文句を言ってはいけませんよね。
……しかしですねー、ロザリア…」

はっきり言って、ルヴァは少々いらだっていた。
が、ぶつぶつ言いながらも仕事のペースは早く、書類の山は見る見るうちに積みあがって行く。

「これでおしまいですかね」

最後の書類にサインを終えたところで、まるでタイミングを見計らったかのように執務室の扉がノックされた。

「どなたです?こんな夜更けに」

自分のことはまるきり棚に上げた問いかけをしながら、扉に向かう。
仕事も終えた、やっと帰れるのだ。
まだ読みたい本もあるし、時間は有効につかわなくてはならない。
誰が来ていたとしてもさっさと追い返すに限る、などとこの人物にしては珍しく物騒なことを考えていたが、扉を開いて瞠目した。

「へ、陛…!」
「しーっ、大きな声出さないで!」

見上げる位置にある青年の口をあわてて塞ぐ。
なぜか扉の向こうにいた女王は、いつものドレス姿とは違い、年頃の少女の格好、つまり完全にお忍びスタイルで立っている。

ルヴァとて、もちろん、愛しい少女のかわいらしい姿を見たくないわけではないが、何せ相手は女王陛下である。
喜ぶより先に驚いてしまうのも仕方なかろう。

「へ…アンジェリーク、何故こんな時間に?」
こんな時間に女王陛下が守護聖を訪ねるなど前代未聞である。
とっさに候補時代の呼びかけに戻し、自分を落ち着かせるために質問する。

「だって今日は……いいじゃない、付き合って欲しいの!」
「それは、構いませんが…」
「じゃあ決まり!行くわよ!」
「しかし、こんな時間に…ちょ、ちょっとあの、アンジェリーク?!」
「だーいじょうぶvvロザリアもちゃーんと知ってるんだから」
「ロザリアも?」

こういうときの彼女に逆らうのは得策ではない。
そう知っているルヴァは、こっそり息をつくと彼女に並んで歩き始めた。






連れて来られたのは風の吹く丘の上。
一面に咲く花が一斉に風にたなびく様は、幻想的ですらある。

「ここは…エリューシオン…」
「そう。この宇宙で、私が一番初めに育てた場所」
「なぜ、ここへ?」
「見せたかったから」
「見せたかった?」

訳もわからず繰り返した言葉には答えず、アンジェリークは足元にかがみこむ。
「陛下?」
「もう、『陛下』は止めてください、ルヴァ様。誰もいないんだからいいでしょ?」
一瞬振り返ってかわいらしくひとしきり文句をいうと、またかがみこんで何やらごそごそと続ける。
なにやら意図があるらしいことは分かったので、しばらくは邪魔をせずに待っていたルヴァだったが、だんだん手持ち無沙汰になってきて問いかけた。

「ええと…アンジェリーク、そのー、そろそろここへ来た理由を教えては頂けないでしょうかね?」
「できた!」
「は?」
「ルヴァ様、お誕生日おめでとうございます!」
「え、ええっ?」

差し出されたのは、色とりどりの花で出来た花冠。
いい年をした青年には全くふさわしくないものである。

「あ、あの、アンジェリーク?」
「黙っていてごめんなさい。どうしても、ルヴァ様のお誕生日を一番最初にお祝いしたかったから。最初は私邸に行くつもりだったんですけど、ロザリアに怒られちゃって」
「アンジェリーク」
「あのね、ルヴァ様。ちょっとかがんでくれますか?」
「はい?」

ちょいちょいと手招きをする彼女につられて、背をかがめる。

「わわっ!」

するりとターバンを解かれ、代わりに差し出されていた花冠を載せられた。

「ふふっ、かわいい!」
「ふふっ、じゃ、ありません!全く、あなたと言う人は…」

そのまま、小柄な彼女を抱き締め、耳元で囁く。

「ありがとうございます。あなたが祝ってくれるのが一番、嬉しいですよ」





今だけは幸せだから。
彼女の育てたこの地で、彼女と共にいられることが、何よりも幸せだから。

だから、今だけは、何も言わないでおこう。



あとで、こんなところまで連れてきて強引だとか、この年で花冠は恥ずかしいとか。
私情で無理難題を押し付けたロザリアや、お忍び好きの女王陛下にお小言を言わなくてはいけないとしても。


今だけは。 (fin)









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間に合ったんだか、間に合ってないんだか。
とりあえず、日付が変る前に出せたので個人的にOKとしましょう。


目指せルヴァリモ甘甘!で書いてたんですが、あんまり甘くないかなぁ?
この二人で書いてると、長編設定がどうしても裏にあるので気付くと甘くないかも。
(この話は全然本編とは関係ないんですが)

というわけで、何もひねってる時間がありませんでしたので、そのままストレートにフリーとさせて頂きます(笑)
よろしければBBSに一言書いてお持ちくださいね。